主知主義・主意主義・主情主義という三つの倫理思想とプラトンの魂の三分説との関係とは?
紀元前4世紀の古代ギリシアの哲学者であるプラトンの主著の一つである『国家』においては、
国家における行政と統治、国防と治安、そして経済活動という三つの機能の区分に基づいて、
人間の魂や精神活動の内にも、知性的部分、気概的部分、そして欲望的部分という三つの機能的な区分があるとする魂の三分説(魂の三部分説または魂の三区分説とも呼ばれる)が説かれています。
そして、こうしたプラトンの魂の三分説における知性的部分と気概的部分と欲望的部分という三つの概念は、
そのいずれの部分を重視するかによって、主知主義と主意主義と主情主義という互いに異なる立場をとる三つの倫理思想へとつながっていくことになるのですが、
こうした三つの思想上の立場と、プラトンの魂の三分説には、より具体的にはどのような対応関係があると考えられることになるのでしょうか?
プラトンの魂の三分説における知恵と勇気と節制の調和としての善の実現
プラトンの魂の三分説においては、人間の魂や精神活動には知性的部分と気概的部分と欲望的部分という三つの区分があるとされたうえで、
そうした魂のあり方の三つの区分のそれぞれを司る徳(アレテー)のあり方として、知恵と勇気と節制という三つの徳が提示されることになります。
つまり、
上記の魂の三区分において、知性的部分の働きには知恵が、気概的部分の働きには勇気が、そして欲望的部分の働きには節制がそれぞれ該当していて、
こうした三つの心の部分の働きに応じて、個人個人の人間の性格が形づくられ、一つ一つの行動の選択がもたらされていると考えられるということです。
そして、
以上のようなプラトンにおける魂の三分説と人間が善く生きるための徳の議論に基づくと、
魂すなわち人間の心における知恵と勇気と節制という三つの働きが互いに調和することによって、精神の安定がもたらされ、
そうした三つの徳と三つの心の働きの調和によって、人間が善く生きるという意味においての善が実現されると考えられることになるのです。
主知主義・主意主義・主情主義とプラトンの魂の三分説との関係
それでは、
こうしたプラトンの魂の三分説における知恵と勇気と節制という三つの徳を巡る議論が、主知主義と主意主義と主情主義という三つの倫理思想上の立場とどのようにして結びついていくのか?ということについてですが、
それは、プラトン魂の三分説において人間の心の調和と善の実現のために必要とされた三つの徳のうち、どの要素をより重視するのか?という視点の違いによって互いに区分されている立場であると考えられることになります。
つまり、一言でいうと、
主知主義とは、倫理や道徳において、プラトンの魂の三分説における知性的部分とその働きである知恵を重視する思想上の立場であり、
それに対して、主意主義は、気概的部分とその働きである勇気を重視する立場、主情主義は、欲望的部分とその働きである節制を重視する立場であると考えられるということです。
そして、こうした解釈に、主知主義と主意主義と主情主義というそれぞれの言葉自体が持つ意味も加味したうえで、より正確に定義づけるとするならば、
主知主義とは、倫理や道徳において、プラトンの魂の三分説における知性的部分とその働きである知恵を重視し、
知性や理性に基づく論理的な判断と真理の把握によって善が実現されるとする立場であり、
それに対して、
主意主義とは、気概的部分とその働きである勇気を重視し、正しいことを実際に実践するという自らの意志による行動の決断によってこそ善が実現されるとする立場、
主情主義とは、欲望的部分とその働きである節制を重視したうえで、そうした肉体や感情面における適度な快感や快楽の充足と、良心などの道徳的な感情の働きによって善が実現される立場であるといった点に、
それぞれの思想上の立場の違いと、プラトンの魂の三分説との具体的な関係性を見いだすことができると考えられることになるのです。
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以上のように、
主知主義と主意主義と主情主義という三つの言葉は、
プラトンの魂の三分説における知性的部分と気概的部分と欲望的部分という三つの魂の区分、そして、その働きである知恵と勇気と節制という三つの徳のあり方に対応する形で形成されていった倫理思想上の立場であると考えられることになります。
そして、上記の三つの思想上の立場においては、
人間の心の働きにおける知恵と勇気と節制、あるいは、知性と意志と感情といった三つの機能のうちのどの部分の働きをより重視するかによって、
それぞれの立場における思想の違いが生じていったと考えられることになるのです。
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