旧約聖書における同害報復と万人に平等な刑罰の原理、ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?②
前回書いたように、ハンムラビ法典における同害報復の規定は、すべての人間に対して同様に適応される平等な刑罰の規定だったわけではなく、それはむしろ、身分差別的な意味合いの大きい刑罰の規定であったとも考えられることになります。
そして、それに対して、旧約聖書の記述において「目には目を、歯には歯を」といった同害報復に関する記述が現れる箇所としては、「出エジプト記」「レビ記」「申命記」という三つの箇所が挙げられることになるのですが、
その中でも、現代における同害報復の意味に最も近い記述内容としては、「レビ記」において記されている古代イスラエルの民族指導者にして預言者であるモーセ(Moses)が語るイスラエルの人々対する言葉が挙げられることになります。
旧約聖書の「レビ記」における「目には目を、歯には歯を」の記述とは?
旧約聖書の「レビ記」においてモーセは、自らが神の言葉を預かり、それをイスラエルの民へと告げ知らせる形で、道徳的に大きな罪を犯した者に課せられるべき罰のあり方は以下のようなものであるべきだと語っています。
人を打ち殺した者はだれであっても、必ず死刑に処せられる。…
命には命をもって償う。
人に傷害を加えた者は、それと同一の傷害を受けねばならない。
骨折には骨折を、目には目を、歯には歯をもって人に与えたと同じ傷害を受けねばならない。
家畜を打ち殺す者は、それを償うことができるが、人を打ち殺す者は、死刑に処せられる。
あなたたちに対する刑罰は寄留する者にも土地に生まれた者にも同様に適用される。わたしはあなたたちの神、主である。
(旧約聖書「レビ記」24章17節~23節)
つまり、
「レビ記」のこの部分の記述においては、
人間が他の人の体の一部分を傷つけた場合には、その人は自分自身の体の同じ部分を差し出すことによって償いをなさねばならず、
その人の命自体を奪ってしまった場合には、自らの命を差し出すことによってその償いをなさなければならないという現代における同害報復の概念にそのまま通じる思想が語られていると考えられることになるのです。
異邦人にも自国民にも同様に適用される万人に平等な刑罰のあり方
そして、
自らが神から預かった言葉として語られている上記のモーセの発言の後段の部分では、「あなたたちに対する刑罰は寄留する者にも土地に生まれた者にも同様に適用される」とも述べられているように、
ここでは、刑罰の具体的なあり方と共に、そうした刑罰の適用範囲のあり方についても語られていると考えられることになります。
上記の記述における「寄留する者」とは、一時的にその国に滞在する人々、すなわち、外国人のことを指していて、
それに対して、「土地に生まれた者」とは、その国に生まれ住み、その国の国民としての地位を得ている人々、すなわち、自国民のことを指していると考えられることになります。
そして、このように、
刑罰のあり方が、その国の国内において比較的弱い立場にある外国人に対しても、より強い立場にある自国民に対しても同等に適用されるということは、
モーセが示している同害報復的な刑罰のあり方は、自国民であるか外国人であるかといった地位や立場の強弱を問わずに、
その国において最も強い立場にある王や貴族、お金持ちから、一般市民、貧者、さらには最も弱い立場にある奴隷のような境遇にある人にまで平等に適用される刑罰の原理であると考えられることになるのです。
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以上のように、
旧約聖書の「レビ記」においてモーセが語っている同害報復的な刑罰のあり方は、ハンムラビ法典において語られている刑罰のあり方と違い、
身分差別的な意味合いを持たないすべての人間に対して平等に適用される刑罰の原理であると考えられることになります。
したがって、
ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとしては、第一に、
ハンムラビ法典における同害報復の規定が同等の身分階級の人間同士の関係においてのみ成立する身分差別的な要素が強い規定となっているのに対して、
旧約聖書の「レビ記」における同害報復に関する記述は、すべての人間の関係に同様に適用されるより平等性の高い刑罰の原理となっているという点が挙げられることになります。
そして、また次回以降詳しくは考えていくように、
今回取り上げた旧約聖書の「レビ記」における同害報復の記述からは、他にも様々な道徳的原理が読み解かれていくことになるのですす。
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次回記事:命でしか償うことができないが命によっても償いきれない罪、ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?③
前回記事:ハンムラビ法典と旧約聖書における同害報復の規定の違いとは?①ハンムラビ法典の身分階級に基づく賠償制度の違い
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