新型コロナウイルスの起源と責任をめぐる中国とアメリカの争いと『ヒカルの碁』の藤原佐為の碁笥とアゲハマ
2020年3月12日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が深刻な状況となっていくなか、中国の外務省の趙立堅報道官は、このウイルスの流行の起源と責任をめぐるTwitterに投稿のなかで以下のような主張を展開した。
「アメリカで最初の患者が発生したのはいつだったのか?この国にはいったいどれだけの感染者がいるのか?感染者たちはいったいどの病院に収容されているのだろう?もしかすると武漢にウイルスを持ち込んだのはアメリカ軍だったのかもしれない。」
(When did patient zero begin in US? How many people are infected? What are the names of the hospitals? It might be US army who brought the epidemic to Wuhan.)
※英語はTwitterの原文、日本語訳は筆者による。
こうした中国側のアメリカへの責任転嫁ともとることができる一連のやり取りを目にしたとき、
筆者はふと囲碁を題材にした累計発行部数が2500万部を記録した日本の漫画である『ヒカルの碁』の冒頭の部分において、
物語の主人公である進藤ヒカルの心の中に入り守護霊として囲碁を教えていくことになる藤原佐為(ふじわらのさい)が自らが非業の死を遂げることになったいきさつについて語る場面を思い出した。
御前試合における偽りの不正の指摘と藤原佐為の非業の死
平安の都で大君に囲碁を教える指南役の役目を与えられていた佐為は、ある時、自分と同じく囲碁指南役の地位にあったライバルの男に大君の前での御前試合を申し込まれることになる。
佐為は白石、相手が黒石を持って試合がはじまり、盤面互角の形勢で対局が進んでいくなか、佐為は、
相手の男が自分の黒石が入った※碁笥の中に混じっていた一個の白石をつまんで、自分の※アゲハマに紛れ込ませ、その石を自分のものにしてしまうという不正行為を目にすることになる。
※碁笥(ごけ)とは、白と黒のそれぞれの碁石を入れておく丸い容器。
※アゲハマとは、試合中に相手の石を囲んで取ることによって自分のものにした石。
しかし、
自分が気づいた不正行為を指摘しようとして佐為が声を上げかけた時、そのことに気づいた相手の男は機先を制して、
「おいキサマ、今、碁笥にまじっていた黒石を自分のアゲハマにしたな。
見ていたぞ。」
と言って、
自分が行った不正行為を、さも、佐為が行ったかのように先に言いがかりをつけて見せることによって、自らの不正行為をうやむやにしてしまう。
そして、心の動揺のおさまらぬまま、勝負に敗れることになった佐為は、偽りの不正の汚名を着せられたまま失意のうちに入水することによって非業の死を遂げることになるのである。
中国側がウイルスの起源がアメリカ軍にあるという疑惑を指摘した意図と真意はどこにあるのか?
そもそも、今回、
中国の武漢を最初の流行地として世界各地へと感染拡大が進んでいった新型コロナウイルスの大本の起源については、
野生生物を自然宿主とするウイルスが突然変異したことによる自然発生説のほかに、人工ウイルス説、さらに言えば、
中国科学院の武漢ウイルス研究所の関連施設からのウイルス流出説や生物兵器説といった陰謀論に近いような議論までがアメリカやイギリスといった欧米のニュースメディアにおいて広く取り上げられていた。
(アメリカのワシントン・タイムズや、イギリスのデイリー・メールなど)
そして、
こうしたアメリカを中心とする世界各国のニュースメディアからウイルスの起源に関する一連の疑惑が向けられつつあるなか、
今回、外務省の報道官という中国政府における公的な立場からの発言として、
言わば、機先を制する形で、
ウイルスの人為的な流出や生物兵器説を疑うのならば、中国の側ではなく、むしろ逆に、アメリカ軍の方が怪しいのではないか?
という新たな疑惑が指摘されることになったのである。
果たして、この場合、
自らの不正や真実を覆い隠すために、相手に対して偽りの不正を指摘しているのは、いったいどちらということになるのだろうか?
・・・
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