イタリアの都市封鎖とロンバルディア都市同盟、新型コロナウイルスの感染拡大の歴史的背景としての北イタリア諸都市の連帯
2020年3月7日、イタリア政府は北イタリア地域での新型コロナウイルスの急速な感染拡大に対処するための緊急措置として、
ミラノを中心とするロンバルディア州の全域とヴェネツィアを含むヴェネト州とエミリア=ロマーニャ州の一部の地域に対して、市民の集会や移動を厳しく制限する事実上の都市封鎖を実行することを決定した。
ところで、こうしたロンバルディアを中心とする北イタリアの地域において、都市封鎖が可能となるような一つの大規模な集団を形成していくような形で感染が拡大していったことの歴史的な背景には、
ミラノやヴェネツィアといった北イタリアの諸都市において、中世ヨーロッパの時代から形づくられていったと考えられるロンバルディア都市同盟に象徴されるような都市同士の密接な結びつきが挙げられることになる。
ロンバルディア都市同盟とドイツの赤髭王バルバロッサ
5世紀にローマ帝国が崩壊して以降の中世の時代のイタリアは長いあいだ小国が分立した状態にあり、ドイツやフランスなどの近隣諸国がとくに国境付近の北イタリア地域の支配権をめぐって互いに争い合う状況にあった。
そして、そうしたなか、
12世紀になると、赤髭王やバルバロッサといった呼び名で有名な神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ1世のイタリア遠征に対抗する形で、
ミラノやヴェネツィア、パドヴァといった北イタリアの諸都市が中心となって都市の自治権の防衛のためにロンバルディア都市同盟と呼ばれる軍事的な同盟関係が結ばれていくことになる。
その後、
ロンバルディア都市同盟に参加する北イタリア諸都市の連合軍は、
1176年に都市同盟の盟主でもあったミラノ近郊に位置するレニャーノの戦いでドイツの神聖ローマ帝国軍を退けたのち、
1183年に結ばれたコンスタンツの和議において皇帝フリードリヒ1世の同意のもとにイタリア諸都市の自治が正式に承認されることになる。
そして、その後も、
ロンバルディア都市同盟に参加していた北イタリアの諸都市は、ミラノの手工業と繊維産業、ヴェネツィアの商業と交易などといった産業面での結びつきを深めていくことによって、
互いに政治的・経済的・文化的な面における交流と連帯を強めていくことになっていったと考えられる。
北イタリア諸都市の強固な連帯と新型コロナウイルスの急速な感染拡大
そして、その後、
正式な統一国家としてのイタリアが成立するまでには、1861年のイタリア王国の建国を待たなければならないものの、
こうした中世ヨーロッパの時代に起源を持つロンバルディア都市同盟を中心とする北イタリア諸都市の同盟関係は、
そうしたイタリア王国の建国へとつながる19世紀のイタリア統一運動の流れのなかでも、イタリア国民とイタリア都市の連帯の基盤となる一つのシンボルとしても位置づけられていくことになる。
そして、そういった意味では、
今回のイタリア政府によるロンバルディア州を中心とする大規模な都市封鎖を引き起こすことになった北イタリアの地域における新型コロナウイルスの急速な感染拡大の遠因となった一つの歴史的な背景としては、
こうした中世の時代におけるロンバルディア都市同盟から続く、北イタリア諸都市の間における交流と連帯の存在があったと考えられる。
そして、こうした古くから続く
ある意味では国家という概念をも超えた都市同士の強固な連帯があったがゆえに、工業や商業そして観光産業といった経済活動が活発であり、相互的な都市の連携も強かった
ミラノやヴェネツィアといった北イタリアの諸都市において、連鎖的な感染の拡大が進展していくことになってしまったとも考えられるのである。
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