英雄ペロプスの王女ヒッポダメイアへの求婚と戦の神アレスと海の神ポセイドンの戦車競走、オリンピア祭の古代ギリシア神話における由来②
前回の記事で書いたように、自らの父であるタンタロスの手によって殺されて、神々の饗宴の糧として捧げられた英雄ペロプスは、
その後、神々の手によって新たな命を与えられて復活を遂げたのち、海の神ポセイドンによって与えられた有翼の戦車に乗ってエーゲ海を越え、のちにペロポネソス半島と呼ばれることになるギリシアの地へとたどり着くことになります。
そして、
こうして新天地であるギリシアの地へと降り立った英雄ペロプスは、この地で、ピーサの王女であったヒッポダメイアと出会うことによって、
オリンピア祭の起源としても位置づけられることになるギリシア神話における新たな物語がはじまっていくことになるのです。
オイノマオス王と王女ヒッポダメイアへの求婚者たちとの戦車競走
ギリシア南部のペロポネソス半島に位置するエリス地方における古代都市の一つにあたるピーサの王オイノマオスのもとには、ヒッポダメイアという名の美しい王女がいて、
彼女のもとには、ギリシアの各地から、その美しさに魅せられて、彼女のことを自らの妻にしたいと思う数多くの求婚者たちが押し寄せてくることになるのですが、
「汝は、自分の娘と結婚する男によって殺されることになるだろう」
という恐ろしい神託の言葉を耳にしていたオイノマオス王は、自分の娘であるヒッポダメイアのもとに来る求婚者たちのことを深く憎んで、彼らに対して戦車競走を挑んでいくことになります。
そして、オイノマオス王は、
ヒッポダメイアを自分の戦車に乗せた求婚者がエリスの地を出発して、ギリシア本土とのちのペロポネソス半島とをつなぐコリントス地峡にまで先に到達することができたならば、彼女のこと妻とすることを認めることを条件として、彼らと戦車競走をはじめていくことになるのですが、
戦の神であるアレスの息子でもあったオイノマオス王は、戦の神アレスから与えられた強靭な馬と武具を持っていたため、
先に走る求婚者の戦車との間の遅れをものともせず、競争が始まるとすぐに彼らの戦車へと追いついてしまい、
そのまま自らの槍によって求婚者を串刺しにして殺して首を刈り取ると、勝利の証として、その首を自らの館の壁に釘づけにして飾ることにしていたのです。
ペロプスとオイノマオスの戦車競走とミュルティロスの細工
そして、
こうした自らの父の残虐な所業を見てすっかり恐ろしくなり、そうした残酷な父のもとから自分を救い出してくれる力を持った新たな求婚者のことを待ち望んでいたヒッポダメイアのもとに、
ある時、すでにギリシアの地へとたどり着いていたペロプスも求婚者として赴いていくことになるのですが、
海の神ポセイドンによって愛されたペロプスの美貌を目にしたヒッポダメイアは、ひと目で彼に対して強い恋心を抱くと、
この新たな求婚者が自らの父の暴虐の新たな犠牲者となることがないように、オイノマオス王の戦車の御者であったミュルティロスに頼んで、戦車の車軸に細工を加えて、競争の途中で戦車の車輪が外れてしまうような仕掛けを講じることにします。
そして、戦車競走の当日になると、
オイノマオス王は、いつものように、エリスの地を出発した王女ヒッポダメイアが乗るペロプスの戦車を、自らの父である戦の神アレスから授かった強靭な馬が引く戦車によって追い駆けていくことになるのですが、
ペロプスが乗る戦車は、今までの求婚者たちが乗っていた通常の戦車とは違い、海の神ポセイドンによって授けられた翼の生えた不死の馬が引く黄金の戦車であったため、オイノマオス王はなかなか追いつくことができず、
いつものようにはやく追いつくことができない苛立ちがつのるなか、先を行くペロプスの背中に向けて自らの槍を放とうとした瞬間、
戦車の御者であったミュルティロスの細工によって緩んでいた車の車軸が外れて戦車の車輪ごと飛んでいってしまい、
オイノマオス王は、そのまま空中でバラバラに分解する戦車に巻き込まれて死んでしまうことになるのです。
戦の神アレスと海の神ポセイドンの戦車競走としてのオリンピア祭の起源
そして、その後、
オイノマオス王と交わした約束の言葉に従って、エリスの地のピーサの王女ヒッポダメイアを妻としたペロプスは、亡き王の後を継いで王の座につくと、
すぐに古代都市オリンピアを含むエリスの地を平定して、さらに半島全体へとその勢力を大きく拡大していくことによって、この半島はペロプスという彼の名をとってペロポネソス半島と呼ばれることになり、
ペロプスはエリスの英雄、さらには、そうしたエリスの地に位置する古代都市の一つであったオリンピアの英雄としても位置づけられることになっていったと考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうしたエリスの英雄、そして、オリンピアの英雄としても位置づけられることになるペロプスの王女ヒッポダメイアへの求婚の物語と、
その物語のなかで語られている
海の神ポセイドンの有翼の戦車に乗る英雄ペロプスと、戦の神アレスの強靭な馬の戦車に乗るオイノマオス王との間で行われた戦車競走が一つの起源となることによって、
のちに、
短距離走や長距離走、あるいは、戦車競技などといった陸上競技が神々に対して捧げられていくことになるオリンピア祭と呼ばれる運動競技会のあり方が形づくられていくことになっていったとも考えられることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスによるエリス攻略と双子の英雄エウリュトスとクテアトスとの戦い、オリンピア祭の古代ギリシア神話における由来③
前回記事:オリンピア祭の古代ギリシア神話における由来とは?①エリスの英雄ペロプスの復活と新天地ギリシアへと走る有翼の戦車
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