正義の女神とは何か?ギリシア神話における法の女神テミスとローマ神話における正義の女神ユスティティアとの関係
アメリカの司法省や日本の最高裁判所などに代表されるような裁判所や検察庁などの司法機関の正面玄関やロビー付近などには、
右手に剣、左手に天秤を持ち、しばしば目隠しをした姿で描かれていることが多い、一般的には、正義の女神といった呼び名で呼ばれている女神の像が飾れていることかがありますが、
こうした司法や裁判における公正さのシンボルとして、現代においても飾られていることが多い正義の女神の像の題材となった女神は、
ギリシア神話やローマ神話といった古代神話の物語のなかにおいては、具体的にどのような存在として位置づけられていると考えられることになるのでしょうか?
ギリシア神話における法の女神テミスとローマ神話における正義の女神ユスティティアとの関係
こうした裁判所などの司法機関などにおける公正さの象徴を示すような存在として位置づけられている正義の女神の像は、直接的には、
ラテン語において「正義」や「公正」といった意味を表すユスティティア(Justitia)という名詞がそのまま女神のことを意味する名前ともなった
ローマ神話における女神ユスティティアの姿をかたどった像として位置づけられていることが多いと考えられることになります。
そして、それに対して、
ギリシア神話においては「正義」を象徴する女神としては、ディケー(Dike)と呼ばれる女神の名が挙げられることになるのですが、
その一方で、
古代ローマの時代から、前述したローマ神話における正義と公正さを象徴する女神にあたるユスティティアと同一視されてきた女神の名としては、
ギリシア神話において正義を司る女神として位置づけられているディケー本人ではなく、そうした正義の女神ディケーの母にあたる法の女神テミス(Themis)の名が挙げられることになるのです。
神々の世界と人間の世界とを貫く普遍的な法と秩序を象徴する存在としての女神テミスの位置づけ
そして、詳しくは以前に、
「ティターン十二神の具体的な特徴とギリシア神話における神々の系譜」の記事のなかなどにおいて書いてきたように、
こうしたギリシア神話において法と秩序を司る女神として位置づけられるテミスは、ギリシア神話における主神として位置づけられているゼウスが誕生する以前のまだ世界自体が誕生して間もない太古の時代において宇宙を支配していた
ティターン十二神と呼ばれる巨神族のうちの一柱として数え上げられている女神でもあり、
ギリシア神話においては、ゼウスを主神とするオリュンポスの神々によって支配されているとされる現在の世界のあり方は、
こうしたティターン十二神と呼ばれる古代の神々とオリュンポスの神々との間で戦われたティタノマキアと、その後のギガントマキアと呼ばれる二回にわたる神々の大きな戦いを経て形づくられていったと説明されていくことになるのですが、
そうしたティタノマキアと呼ばれる天界を二分する神々の戦いの際にも、
女神テミスは、自分の同族であるティターン神族の側にくみせずに、ゼウスを代表とするオリュンポスの神々との間でも中立で公正な立場を保ち続けていくことになります。
そして、そういった意味では、
こうしたギリシア神話における現在の主神にあたるゼウスよりも、さらに古い起源を持つ女神である法と秩序を司る女神テミスは、
現実の世界の成立よりもさらに起源の古い、神々の世界と人間の世界とを貫く、普遍的な法と秩序を象徴する神であると捉えていくことができるとも考えられることになるのですが、
そういった点からも、
こうしたギリシア神話において正義を司る女神として位置づけられているディケーの母にして、自らも法と秩序と公正さとを司る女神でもあるテミスは、ローマ神話における正義と公正さを司る女神であるユスティティアと同一視されていくことを通じて、
現代の世界においても、そうした神々の世界と人間の世界とを貫く普遍的な法と秩序、そして、公正な精神のあり方を体現する正義の女神の姿を象徴する存在として位置づけられていくことになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:法の女神テミスと正義と秩序と平和と司る三姉妹の女神の関係とは?自然法則と道徳法則の両者を同時に司るギリシア神話の神々
このシリーズの前回記事:ギリシア神話の海の神ポセイドンとオケアノスの関係とは?ティターン十二神からオリュンポス十二神への天空と海の支配の移譲
前回記事:日本人が台風や津波などの災害時に避難が遅れやすい心理学的な三つの理由とは?仏教的な悟りへも通じる諦観の境地
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