ヤコウチュウ(夜光虫)は動物と植物のどちらに分類されるのか?ヤコウチュウとは何か?①
前回書いたように、植物に分類される生物の中の一部門である渦鞭毛藻には、ヤコウチュウ(夜光虫)と呼ばれる海洋性のプランクトンも分類されることになり、
そういう意味では、ヤコウチュウ(夜光虫)は、渦鞭毛藻と呼ばれる海洋性の植物の一種に分類されると考えられることになるのですが、
その一方で、
そもそも、夜光虫という名前の付けられ方からも分かる通り、一般的には、ヤコウチュウと呼ばれる生物は、「虫」、すなわち、小動物の一種としても捉えられていると考えられることになります。
それでは、
こうしたヤコウチュウ(夜光虫)と呼ばれる生物は、果たして動物と植物のどちらに分類する方がより適切であると考えられることになるのでしょうか?
海洋性プランクトンとしてのヤコウチュウの生物体の構造
冒頭でも述べたように、ヤコウチュウ(夜光虫)とは、比較的水温の高い温暖な海において生息する海洋性のプランクトンの一種であり、
夜になると海の波などの刺激を受けて青白い光を発する発光生物としても知られる単細胞生物です。
そして、
こうしたヤコウチュウと呼ばれる単細胞生物の生物体としての構造の具体的な特徴を挙げていくと、
まず、
ヤコウチュウは、他の渦鞭毛藻に分類される生物と同様に、二本の鞭毛を持っていて、そうした鞭毛を利用して自らの体を渦を巻くように回転させながら泳ぐことによって水中をある程度自由に動き回れると考えられることになります。
しかし、その一方で、
ヤコウチュウには、通常の鞭毛藻類において見られる光合成を行うための葉緑体は退化して消滅してしまっていて、
その代わりに、
細胞の外壁の一部が変形してできた触手を用いることによって自分の周囲にいる他の藻類や原生動物などのプランクトンを捕食することで生活を営んでいると考えられることになります。
また、
ヤコウチュウの生物体の大きさと形状は、直径1~2ミリメートル程度の球形となっていて、これは一般的な渦鞭毛藻に分類される生物の大きさが直径0.01~0.1ミリメートル程度であるのと比べて、かなり巨大な細胞体を形成していると考えられることになるのですが、
これは、ヤコウチュウにおいては、植物細胞において代謝産物の貯蔵などの役割を担う液胞と呼ばれる細胞液に満たされた組織が非常によく発達することになるので、それによって、そのような大きさまで細胞が大きく膨れ上がっていくことになると考えられることになるのです。
ヤコウチュウ(夜光虫)は動物と植物のどちらに分類されるのか?
つまり、以上のことをまとめると、
ヤコウチュウは、生物学的な分類系統においては、渦鞭毛藻と呼ばれる広義における藻類と最も多くの共通点を有する生物であるという点や、
液胞と呼ばれる植物細胞においてのみ発達する細胞小器官が大きく発達しているといった点においては、植物の性質を備えた生物であると考えられることになるのですが、
それに対して、
鞭毛を用いることによって水中をある程度自由に動き回ることができ、触手を動かすことによって他の生物体を捕食することによって生活を営んでいる点や、
光合成という植物を定義づける最も主要な特徴が欠けているといった点においては、それはむしろ動物の性質を備えた生物であると考えられることになります。
・・・
それでは、
以上のようなヤコウチュウの生物体の構造についての考察を踏まえたうえで、冒頭で挙げた疑問に答えようとする場合、その答えはいったいどのようなものになるのか?ということについてですが、
ヤコウチュウは、運動性や捕食能力といった動物としての基本的な性質をすべて備えたうえで、光合成を行うという植物を定義づける最も主要な特徴が欠けているという点において、
ヤコウチュウと呼ばれる生物自体を動物か植物のいずれか一方に分類しようとするならば、
それは、水中で生育する植物である藻類の一種であると捉えるよりは、鞭毛などを用いて移動と捕食を行う単細胞生物である原生動物の一種であると考える方がより適切な捉え方であると考えられることになります。
しかし、その一方で、
前述したように、ヤコウチュウは、植物学的な分類系統においては、鞭毛藻類とよばれる藻類の一種に分類されることも事実であり、
おそらくは、そうした鞭毛藻類の一種が進化の過程で光合成を行う能力を失い、周りの他の生物を捕食することに特化する形で進化することによって生まれた生物の種族であるとも考えられることになるので、
そういう意味では、
ヤコウチュウは、本来は植物に区分される分類系統に位置づけられる生物でありながら、植物としての最も重要な能力である光合成という能力を失うことによって、現実的には原生動物に近い存在へと変化した生物であり、
それは、言わば、
進化の過程において、植物から動物へと転落していった生物であるとも捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:夜光虫が発光する具体的な仕組みとラテン語における学名の意味とは?ヤコウチュウとは何か?②
前回記事:渦鞭毛藻とクリプト藻とラフィド藻の違いとは?植物プランクトンとして共通点と大きさや形や耐久性の違い、藻類とは何か?⑦
「生物学」のカテゴリーへ