トロイアの英雄アエネアスとラテン人の王女ラヴィニアの婚姻、古代ローマ建国史②
ローマの詩人ウェルギリウスの
叙事詩『アエネイス』のなかで、
主人公である
トロイアの英雄アエネアス(Aeneas)は、
ギリシア軍の奸計によって滅ぼされた
祖国トロイアの再興を誓い、
わずかに残されたトロイア軍の残党を率いながら、
海路で新天地イタリアを目指して
航海を続けていくことになります。
しかし、
クレタ島からギリシア西岸、シチリア島を経て、
いよいよ目的地イタリアへ向けて北上しようという時、
トロイアに対して根深い恨みを抱く
女神ユーノーの仕掛けた暴風によって行く手を阻まれ、
せっかく生き延びたトロイア兵たちを乗せたまま、
アエネアスの船団の大半が沈没してしまいます。
そして、
多くの仲間を失った失意のなか、
それでも祖国再興の使命を果たそうと
懸命に働き続けるアエネアスは、
辛うじて残された船と共に、
北アフリカの海岸、
カルタゴの地へと漂着することになるのです。
カルタゴの女王ディードーの歓待と悲劇の別れ
アエネアスは、カルタゴの地で
女王ディードー(Dido)からの歓待を受けて、
互いに惹かれ合い、
彼女から、カルタゴにとどまって
共に国を統治するよう求められるまでに至りますが、
アエネアスは、深く思い悩んだのち、
やはり新天地で祖国を再興する使命を捨てきれず、
ディードーのもとを去って、
イタリアへの旅へと再出発する決意を固めます。
そして、
アエネアスを自らの運命の人と信じ、
彼と共に、理想の国をつくることだけを
一心に夢見ていたディードーは、
アエネアスの乗った船が出港し、
彼が永遠に自分のもとを去ってしまったことを知ると、
絶望のあまり、燃え盛る炎の中に身を投じ、
自ら命を絶ってしまうことになるのです。
以上のような悲劇によって
トロイアの英雄とカルタゴの女王という
二人の男女の物語に終わりが告げられることになります。
英雄アエネアスのイタリア上陸とラテン人との戦い
そして、一方、
カルタゴを旅立ったアエネアスは、
最後の船旅の末に
中部イタリアの西海岸へとたどり着き、
ついに、約束の地イタリアへと降り立つことになります。
ラテン人の王ラティヌスが治める土地に上陸した
アエネアスの一行は、
王に使いを送り、自分たちを
この地に迎え入れてくれるよう求めますが、
アエネアスに会って
その人格と有能さを認めたラティヌス王は、
アエネアスに、自らの一人娘
ラヴィニア(Lavinia、ラテン語読みではラウィニア)と結婚してもらい、
自らの後を継いでもらおうとまで望むようになります。
しかし、
ラヴィニアの求婚者であり
近隣の部族トゥルリ人の王であったトゥルヌスはこれを面白く思わず、
新参者であるアエネアスへの敵意を
次第に強くするようになっていきます。
そして、
ここで、再び女神ユーノーが現れて
この機会に目をつけ、
トゥルヌスをそそのかして
アエネアスと戦い、これを殺そうとするように仕向けると、
トゥルリ人とラテン人の連合軍と
アエネアス率いるトロイア人との間で戦端が開かれてしまいます。
トロイア側にも、ラテン人と敵対していた
エトルリア人やアルカディア人が加勢するなか、
両陣営の間で、一進一退の激しい戦いが
続いていくことになるのですが、
最終的には、
トロイアの英雄アエネアスが
トゥルリの王トゥルヌスを一騎打ちで破ることによって、
トロイア人とラテン人との間に
和解の気運が生まれることになります。
王女ラヴィニアとラヴィニウム、トロイアとラテン人を結ぶ都市
アエネアスの殺害をもくろむ
強硬派のトゥルヌスの死後、
トロイア人とラテン人との間で
再び和平が結ばれることになり、
はじめに王ラティヌスが望んでいた通り、
トロイアの英雄アエネアスと
ラテン人の王女ラヴィニアは、
晴れて結婚の日を迎えることになります。
そして、
アエネアスは、
新たに建設する都市を
妻ラヴィニアの名にちなんで
ラヴィニウム(Lavinium、ラテン語読みではラウィニウム)と名付け、
この地を拠点として、ローマの大本となる
新たなラテン人の諸都市が
建設されていくことになるのです。
・・・
以上のように、
ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』においては、
ギリシア人によって滅ぼされた祖国の地を離れ、
流浪の旅の末、イタリアの海岸へと流れ着いた
トロイア人の英雄アエネアスが、
イタリアの有力氏族だった
ラテン人の王女ラヴィニアとの婚姻を迎え、
トロイア人とラテン人が
新たに一つの民族へと結びつくことによって、
ローマ人という新たな民族が生まれる
礎が築かれたという
ローマ建国の大本となる
物語が描かれているのです。
そして、
その後も、ラヴィニウムの人々が中心となって
ローマの建国にたずさわっていくことになるのですが、
こうしたトロイアとラテン人の結合の象徴の都市
ラヴィニウムは、
都市としてのローマが建設された後も、
その南隣に静かに寄り添う形で、
古き都としての面影をとどめながら、
ひっそりと続いていくことになります。
・・・
このシリーズの前回記事:『オデュッセイア』から『アエネイス』へ続くギリシアとローマの物語、古代ローマ建国史①
このシリーズの次回記事:
ロムルスとレムスの聖都アルバ・ロンガ奪還、古代ローマ建国史③
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