ゲルマン民族大移動とカンブリア紀、生命と多様性の爆発

歴史は繰り返すとはよく言われますが、
歴史にはっきりとした周期があるのかどうかはともかくとして、

歴史の流れのなかに、
一定の秩序がずっと変わることなく続いていく時期と、

これまで続いてきた秩序が急速に崩壊し、
新たに台頭した多様な勢力が互いにしのぎを削りあう
変動の時期

互いに交代しあうように、
交互に現れるのは確かでしょう。

歴史では、
安定した統一の時期と、
分裂と抗争の変動の時期

互いに入れ替わるように
リズムをもって交互に現れる、
ということです。

具体的な歴史上の変動の時期というと、

中国では、
後漢末の混乱期から、
三国志の魏・呉・蜀の三国鼎立時代

日本では、
応仁の乱以降、室町幕府が衰退して、
実質的に日本全体の統率力を失ってから、

徳川幕府が成立して新たな統一がもたらされるまでの
戦国時代

などがその代表的な例にあたるでしょう。

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歴史上最大の変動期としてのゲルマン民族大移動期

そして、ヨーロッパではまさに、
ローマ帝国崩壊前後の
ゲルマン民族大移動期が、

歴史上最大の変動の時期ということになります。

ローマ帝国は、
紀元前27年、オクタウィアヌスが
アウグストゥス尊厳なる者)として実質的な帝政を開始したところから、
事実上はじまります。

ローマ帝国は、
イタリア、ギリシア、フランス、スペイン、イギリスの南半分から、
モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、
そして、パレスチナ、シリア、トルコに至るまで、

地中海世界のすべてを支配する
世界帝国として君臨し、

この広大な領域の統一を、
500年間に渡って維持し続けたのです。

しかし、そのローマ帝国も、アジア系の遊牧騎馬民族の
フン族の侵攻、

そして、それに次いで起こった、
より大きな波である、
ゲルマン民族の大移動によって、弱体化していき、

最終的に、
紀元後476年
ゲルマン民族の傭兵隊長オドアケルによって、

最後のローマ皇帝ロムルス・アウグストゥルスが
廃位されて、

西ローマ帝国は滅亡を迎えます。

この西ローマ帝国の滅亡によって
ピークを迎える

ゲルマン民族大移動という
世界史上最大の変動期のなかで、

それまでローマ帝国の名のもとに保持されてきた
地中海・ヨーロッパ世界の統一と、
それまで当たり前とされてきた既存の秩序は崩壊し、

人々は、
分裂と抗争
無秩序と混乱の時代へと
投げ出されていきます。

しかし、このことは同時に、

それまでローマ帝国という
唯一の統一のもとに抑え込まれてきた
多様な民族たちが、

その支配から解放された
ということも意味しています。

ゲルマン民族大移動期という歴史的な変動の時期は、
分裂と混乱の時期であると同時に、

多様な民族が、自分たちの生き残りをかけて、

それぞれの部族に
固有な能力と特色を自由に生かして、

多様な可能性を花開かせた
彩りにあふれた時代でもあるのです。。

生物史上最大の変動期としてのカンブリア紀

このような
変動の時期と安定の時期のリズムが現れるのは、

人間だけの歴史に限ったことではないでしょう。

地球の歴史
生物全体の歴史へと視点を広げてみても、

そのリズムを感じるとることができるように思います。

そして、その最たるもの、
生物史上、最初にして最大の変動の時期が
カンブリア紀です。

現在から38億年前
最初の生命体が誕生してから、

生物は、ずっと静かに、穏やかに、
その命脈を保っていく時期が続きます。

その間、

光合成により酸素を作り出す
シアノバクテリアが生まれたり、

その酸素をエネルギー源として利用できる
ミトコンドリアが出現したりと、

細胞レベルでは、
革新的な進化もあったのですが、

そこに、現在の生物に見られるような
多様な形、多様な能力をもった種族からなる生態系といった、

生物の多様性はほとんど見られませんでした。

現在から6億年前
先カンブリア紀末期、エディアカラン期になっても、

その時代に生存していた生物は、

薄っぺらい形をした軟体生物が、
クラゲのように海の中をふわふわ漂っているか、

そのまま楕円状になって
海底にのっぺりとへばりついているような奴ばかりで、

見た目としては、
みんな一様で、
同じような形状の、際立った特色のない生物ばかり
という印象があります。

ところが、次の時代である、
現在から5億年前
カンブリア紀になると、その状況は一変します。

カンブリア爆発とも呼ばれているように、

見た目の形状においても、その能力においても、
多様でユニークな生物たちが噴出するように、
突如、大挙して現れてくるのです。

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カンブリア紀の多様でユニークな生物たち

例えば、
カンブリア紀最大の生物であり、
最強の捕食者でもあったと考えられる
アノマロカリスは、

体長最大2メートル
2つの大きな目を持ち、
丸い口には放射状に配置された歯が並び、
それがカメラの絞りのように開閉することで機能し、

その奇妙な口の先には、獲物を捕獲するための
大きなエビのような形をしたトゲのある2本の触手が生え、

胴体には、
ボートをこぐのに使うオールに似た形状のヒレ
左右に13枚ずつ付いていました。

他にも、
オパビニアという生物には、
5つの目と、口の先にゾウの鼻のような器官が付いていて、

そのたくさんの目を使って
ほぼ360度全周囲に近い視野を得て、外敵から身を守りながら、

口先に付いたホースを掃除機のように使って
海底の砂に紛れた生物を捕食していたと考えられています。

また、
オットイアという生物は、
長い寝袋のような形状で、
U字型に掘っていた海底の穴の中に潜んでいて、

頭の先にたくさんのトゲが付いた口を持ち、
アリジゴクのように住処の穴に獲物が近づいてくるのを待って、
捕獲した獲物をバクっと丸呑みにしていたようです。

それで、何でU字型の形になっていたかというと、

ただ真っ直ぐな穴の中に潜んでいただけでは、
穴の中に自分の排泄物がたまってしまって汚いので、

口を出しているのと反対側の穴の出口
お尻の部分だけ外に出して

穴の外に排泄物を放り出せるようにしていたらしいというのですから、
ちょっと驚きです。

どの生物たちも、
まるで、キメラ(異種族の生物をつぎはぎにくっつけて作った生物)や
エイリアンを思わせるような、
多種多様ユニークな生物ばかりで、

奇妙奇天烈な生物が大挙して押し寄せてくる
ようなイメージですね。

生命と人類の可能性の爆発的開花

カンブリア紀に出現した生物の種族には、
他に、

我々、脊椎動物の祖先ともつながりがある、

体長はわずか数センチ
ナメクジのような形をして、体を左右にくねらせて泳ぐ

脊索動物のピカイアなども出現していますが、

そうしたピカイアなどの一部の種族をのぞいて、

カンブリア紀にせっかく活躍した
ユニークな生物たちは、

そのほとんどが次の時代に子孫を残すことができずに
絶滅していきます。

それぞれの種族の生き残りをかけた
激しい生存競争のなかで、
次々に力尽きていき、
淘汰されていってしまったと考えられるわけです。

しかし、結果として、次の時代に
自分たちの種族としての
遺伝子や特色
残しつないでいくことができなかったからといって、

その種族の活動がすべて無駄であったとか、
その存在自体が無意味であったということには
決してならないでしょう。

なぜならば、
歴史の流れのなかで、現れ、消えていったそうした
歴史に選ばれなかった種族
多様な姿形、種族としての特色と固有性を目にするとき、

そこに、
人間の、あるいは、生物全体の、
壮大なスケールで広がる
多様な可能性の広がりを見ることができるからです。

生物史のなかのカンブリア紀、そして、

世界史のなかのゲルマン民族大移動期は、

まさに、
そうした多種多様な種族と民族が、
多様な可能性を現実に花開かせた時代であり、

生命と人類の可能性の爆発的開花が起こった時期、

と言うことができるでしょう。

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