饕餮(とうてつ)とは何か?青銅器の文様や『山海経』における姿形の具体的な描写と古代の戦神である蚩尤との関係性

前回書いたように、饕餮(とうてつ)とは、孔子の書である『春秋』の注釈書である『春秋左氏伝』『呂氏春秋』などの記述においてもその名を見いだすことができる中国神話の怪物の中では、比較的有名な部類に属する怪物であり、

それは、一言でいうと、

貪食や貪欲といった悪徳を体現する悪獣または悪神の一種であると考えられることになります。

そして、

こうした饕餮と呼ばれる怪物についての具体的な記述や描写については、『春秋左氏伝』や『呂氏春秋』といった学術的な文献だけではなく、

紀元前15世紀頃にまでさかのぼる古代の青銅器の文様や、古代から中世にかけて記されてきた中国の民俗資料などにおいても饕餮についての様々な記述や描写を見いだすことができると考えられることになります。

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『春秋左氏伝』における四凶の一柱としての饕餮

まず、

紀元前5世紀頃の古代中国の魯の国の太史であり、孔子の門人でもあった左丘明(さきゅうめい)の作として伝わる『春秋左氏伝』(しゅんじゅうさしでん)では、その注解の部分において、

 財を貪るを饕(トウ)といい、食を貪るを餮(テツ)という」

という形で、饕餮についての言及がなされています。

つまり、

饕餮とは、財貨や食物といったこの世界に存在するあらゆるものを貪り尽くしていくという人間における際限のない貪欲さを体現した怪物であると考えられるということです。

そしてさらに、同じ『春秋左氏伝』のなかでは、

こうした古代中国における四大悪神の名として、

「渾沌」(こんとん)、「窮奇」(きゅうき)、「檮杌」(とうこつ)と呼ばれる三つの怪物の名に加えて、「饕餮」(とうてつ)の名も挙げられていて、

これらの渾沌・窮奇・檮杌・饕餮という古代中国における四つの悪獣または四柱の悪神は、一般的には、世界に災厄をもたらす元凶となる四凶(しきょう)として総称されていくことになるのです。

周や殷の時代の青銅器に見られる饕餮文と『呂氏春秋』の記述

>また、

 紀元前3世紀中国の秦(しん)の宰相であり、始皇帝にも仕えて後に彼によって自死に追い込まれた人物として知られる呂不韋(りょふい)によって編纂された百科全書的な書物である『呂氏春秋』(りょししゅんじゅう)においては、

周鼎饕餮を著し、首ありて身なし」(の時代の(かなえ、金属製の器)には、饕餮をかたどった文様が描かれている。(饕餮には)頭だけがあって体はない

といった形で饕餮についての言及がなされています。

そして、

こうした『呂氏春秋』の記述においても見られるように、

紀元前12世紀頃に建国された中国の古代王朝である周(しゅう)や、さらにその前の紀元前16世紀頃から始まると考えられている殷(いん)の時代においてつくられた青銅器には、

大きな口誇張された目、羊のように曲がった角などを特徴とする奇怪な獣面が左右対称となる形で描かれた文様が数多く見られ、

こうした周や殷の時代の青銅器に見られる特徴的な獣面の文様は、それが前述した饕餮をモチーフとして描かれた文様であるとも考えられるという意味で饕餮文(とうてつもん)として総称されています。

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『山海経』における饕餮の姿形についての具体的な描写と、古代の戦神である蚩尤との関係性

そして、

おそらくは、こうした『春秋左氏伝』や『呂氏春秋』における記述よりは後代になって編纂されたと考えられ、

紀元前4世紀頃~紀元後3世紀頃までの長きにわたって古代中国の地理や、各地に伝わる民俗伝承が幅広く集められていくことによって加筆されていった書物である『山海経』(せんがいきょう)と呼ばれる地理誌においては、

狍鴞(ほうきょう)という名で、こうした饕餮と呼ばれる怪物と非常によく似通った特徴を持つ怪物についての記述がなされていて、

こうした後代における民族資料の記述においては、

饕餮あるいはと呼ばれる怪物は、胴体は羊や牛のようでありながら、頭部と爪は人間のようであり、脇の下に目があり、羊のように曲がった角虎の牙を持つといった饕餮の姿についてのより具体的な描写がなされていくことになります。

また、

中国神話の創世の時代における神々の戦いのなかでは、古代中国の伝説上の帝王である黄帝(こうてい)の支配に異を唱えて反乱を起こした蚩尤(しゆう)と呼ばれる戦乱と武器を司る巨人族にあたる神々が登場することになるのですが、

こうした蚩尤とよばれる古代神の姿については、胴体は獣のようで銅の頭鉄の額を持つとか、四つの目六本の腕を持ち、体は人間のようでありながら頭部は牛のようであって頭に角があって石や鉄を食べといった様々な描写がなされていて、

こうした蚩尤と呼ばれる古代の戦神の特徴の一部に、上述した饕餮の姿についての描写との類似点が見られることなどから、

饕餮は、こうした蚩尤と呼ばれる古代の神々の首領にあたる存在として位置づけられることもあるのです。

・・・

以上のように、

中国神話における四凶の一柱としても位置づけられる貪食や貪欲といった悪徳を体現する怪物である饕餮(とうてつ)についての記述は、

古くは紀元前5世紀の『春秋左氏伝』や、紀元前3世紀の『呂氏春秋』において見られるほか、

紀元前16世紀頃に始まる殷の時代や、紀元前12世紀頃に始まる周の時代においてつくられた様々な青銅器の文様のうちにも、饕餮をかたどって描かれたとも考えられる饕餮文と呼ばれる文様が広く散見されていくことになります。

また、

紀元前4世紀頃から紀元後3世紀頃にかけて編纂された『山海経』と呼ばれる地理誌においては、胴体は羊か牛頭と爪は人間脇の下に目があり、羊のように曲がった角虎の牙を持つといった饕餮の姿についてのより具体的な描写がなされていて、

饕餮は、こうした姿形の特徴などから、中国神話の創世の時代における神々の戦いのなかで登場する蚩尤と呼ばれる古代の戦神たちの首領にあたる存在としても捉えられるようになっていったと考えられることになるのです。

・・・

このシリーズの次回記事:四凶とは何か?中国神話における四つの悪徳を体現する悪神と悪獣の名前とその具体的な特徴

前回記事:『蒼天航路』の犭貪(とん)の怪物と孔子の『春秋』の注釈書における饕餮の記述との関連性

関連記事:万里の長城を舞台とした映画『グレートウォール』に登場する饕餮(トウテツ)と中国神話の関係とは?

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