アブギダ(梵字)の文字表記システムと随伴母音と付加記号の仕組み、音素文字の細分化④

前回は、

音素文字の分類に属するが、狭義におけるアルファベットとは異なる
文字表記のシステムを持つ文字体系として

アブジャドと呼ばれる子音文字のみによって表記される
文字体系を紹介しましたが、

今回は、

音素文字の分類に属するもう一つの文字体系である
アブギダにおける文字表記のシステムについて考えてみたいと思います。

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アブギダの定義と梵字とチベット文字

アブギダabugida)とは、音素音節文字(alpha-syllabary)とも呼ばれる
文字体系の分類の一つであり、アブギダでは、

子音文字を書くと、それに特定の母音が自動的に続くものとして読まれ、
その随伴母音を消したり、他の母音を続けて読ませたいときには、
新たに補助的な付加記号を書き加えることによって
そのことが示されることになります。

詳しい文字表記のシステムについては後述しますが、

アブギダとは、子音文字と単独の母音文字とで構成され、
子音文字付加記号によって子音の後に続く母音を表すことができる
文字体系であるということです。

そして、

こうしたアブギダと呼ばれる文字体系に属する文字としては、

古代インドでサンスクリット語を書くのに用いられ、
日本では、空海の真言宗や最澄の天台宗などの密教における
仏教の経典研究に広く用いられ、神聖なる文字ともされていた
梵字(ぼんじ、悉曇文字、シッダマートリカー文字)や、

現代のインドにおいてヒンディー語の公式表記に使われている
デーヴァナーガリー文字

南インドのグランタ文字タミル文字
カンボジアのクメール文字、そして、

ヒマラヤ山脈と崑崙山脈に囲まれた世界最大の高原地帯に住む
チベット民族が独自に創り上げた文字であるチベット文字

といった文字が挙げられます。

ちなみに、

アブギダに属する文字である梵字(悉曇文字、シッダマートリカー文字)の
文字としての具体的な形状については、

例えば、

“Siddham script (consonants) sample” (wikimedia commons)
などで、梵字の文字表を見ることができますが、
ここでは、左上から順に梵字における子音文字が文字表として並んでいて、

アブギダにおける文字表記のシステムでは、
こうした子音文字に様々な付加記号が添加されることによって
子音につづく随伴母音のあり方が表現されることになるのです。

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アブギダの文字表記における随伴母音と付加記号の仕組み

こうしたアブギダにおける文字表記のシステムについて、
前回、アブジャドの表記システムを説明した時と同様に、
文字の形状はローマ字を代用し、その仕組みだけを抜き出す形で説明すると、
それは以下のようになります。

例えば、

日本語における「楽譜」という単語内容を
ローマ字を用いたアルファベット表記で示すと

gakuhu」(ガクフ)となりますが、

これをアブギダの表記システムを使って書き表すとすると、
まずは、第一段階として子音文字の部分だけを表記して、

gkh」となります。

そして、この仮の文字体系において、それぞれの子音文字の後に自動的に続く
随伴母音がaであるすると、

上記の「gkh」という文字列は、アブギダの表記システムに従って
gakaha」(ガカハ)と読まれることになりますが、

ここで、上記の文字列を元の日本語の発音通りに
gakuhu」(ガクフ)と読ませるために、

新たな随伴母音を指定する付加記号の概念が
登場することになります。

ここで仮に、随伴母音を指定する付加記号を

‘=随伴母音iの指定
`=随伴母音uの指定
^=随伴母音eの指定
*=随伴母音oの指定

というように設定すると、

「g」という子音文字には、その表記のままで
自動的に随半母音のaが続いて読まれることになるので、
付加記号の添加は不要ですが、

k」という子音文字を”ku“と読ませるためには、
随伴文字uを指定する付加記号`を添加して、
k`」と書き記せばよく、

同様に、

「h」という子音文字を”hu“と読ませるためには、
随伴文字uを指定する付加記号`を添加して、
h`」と書き記せばよいことになります。

そうすると、文字列の全体は、正しくは

gk`h`」と書き表されることになりますが、

これでアブギダにおける文字表記のシステムに従った
「楽譜」という単語内容の表記が完成することになり、

上記の「gk`h`」という文字列は、以上のようなアブギダの表記システムに従うと
gakuhu」と読まれることになるのです。

・・・

以上のように、

梵字チベット文字に代表される
アブギダにおける文字表記のシステムでは、

子音文字を一つ書くと、それに特定の随半母音が自動的に伴うものとして
読まれることになり、

その随伴母音の指定の変更は、
付加記号を書き加えることによって行われることになるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:アルファベットとアブジャド(フェニキア文字)の表記システムの違い、音素文字の細分化③

このシリーズの次回記事:アブギダは音素文字か音節文字か?ピアノの楽譜の演奏記号との比較、音素文字の細分化⑤

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