ヘラクレイダイのペロポネソス半島への帰還と三つの王家を象徴する蟇蛙と竜と狐の徴、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語⑤
前回書いたように、ヘラクレスの子孫にあたるヘラクレイダイにして、戦いに敗れて死んだアリストマコスの息子にあたるテーメノスとクレスポンテースとアリストデーモスの三人の兄弟たちは、
彼らが神託を得るために赴いたデルポイの地において、神託を授ける予言の神であったアポロンから、彼らの父祖の代に下されていた神託の真意を告げられることになります。
そして、こうして彼らに下されていた神託の言葉の意味を正しく理解することになったヘラクレイダイたちは、ついに、彼らの父祖たちが成し得なかった一族の悲願であったペロポネソス半島への帰還を成し遂げる旅へと赴いていくことになります。
ヘラクレイダイのペロポネソス半島への帰還と三つ目の男の案内人
そして、その後、
テーメノスとクレスポンテースとアリストデーモスの三人の兄弟たちは、まずは、ペロポネソス半島をギリシア本土から隔てているコリンティアコス湾に面するナウパクトスと呼ばれている土地へと軍を進めてそこで船を建造することになるのですが、
この地に彼らの軍がとどまっている時に、三兄弟の一人であったアリストデーモスは、エウリュステネスとプロクレースという名の双子の子供を残して雷に打たれて死んでしまうことになります。
そして、さらにその後、
彼らがペロポネソスの地へと帰還することを祝福するためにやって来た神託を讃える予言者がこの地を訪れることになるのですが、
神がかりとなった予言者のことを軍に災いをもたらす狂人の魔術師だと思った軍人たちによってこの男は殺されてしまうことになったため、
神の名を汚したことに対する神々の怒りによって、彼らが造った船はすべて嵐に遭って破壊されてしまい、陸上いた軍隊も飢饉に見舞われて解散へと追い込まれてしまうことになります。
そして、
三兄弟の長男であったテーメノスは、神々の怒りを鎮めて再びペロポネソスの地へと帰還する軍備を整えるために改めて神託を求め、
新たに下された神託の言葉に従って、予言者を殺害した人物を見つけ出して十年間の追放の刑に処したうえで、ペロポネソスの地へと至るための案内人として三つ目の男を探していくことになります。
そして、やがて彼らは、
矢を受けて片方の目を失った一つ目の馬を引いて道を歩いていた二つの目を持つオクシュロスという名の男と出会うと、
この男がヘラクレスの妻であったデイアネイラが生まれたカリュドンの王家の血をひく人物であることを知って、この人物が神託の言葉にあった三つ目の男のことを意味していると考えて、
彼を案内人としたうえで新たに建造した船で大軍を率いてコリンティアコス湾を渡ってペロポネソス半島へと進軍していくことになり、
神託に定められた時にかなって戦いを挑んだヘラクレイダイの軍勢は、そのまま陸戦においても海戦においても大勝を重ねてこの地を席巻していき、ついに父祖の代からの夢であったペロポネソス半島の征服を成し遂げることになるのです。
アルゴスとラケダイモンとメッセニアの三つの王家を象徴する蟇蛙と竜と狐の三つの徴
そして、
こうしてヘラクレスの息子であったヒュロスと、その息子であったクレオダイオス、そしてそのさらに息子にあたるアリストマコスという父と子と孫の三代にわたる夢を引き継いでペロポネソスの地へと帰還することになった
アリストマコスの息子にしてヘラクレスの孫の孫、すなわち、玄孫(やしゃご)の代にあたるテーメノスとクレスポンテース、そして、死んだアリストデーモスの息子であったプロクレースの三人は、
この地にヘラクレスの父にあたるゼウスを祀る祭壇を築いて犠牲を捧げると、自分たちが手にすることになったペロポネソスの地の支配権をめぐって互いの領分を定めるために、神聖なるくじ引きを行うことになります。
そして、この時、
ペロポネソスの東方の地にあたるアルゴスが第一のくじ、ペロポネソスの南方の地にあたるのちのスパルタにあたるラケダイモンが第二のくじ、そして、ペロポネソスの西方の地にあたるメッセニアが第三のくじとされることになるのですが、
水壺の内へと三つのくじを投げ入れる際に、テーメノスとプロクレースの二人は第一と第二のくじとして石を投じたのに対して、
自分が西方のメッセニアの地を得たいと考えていたクレスポンテースは、土の塊でできたくじを投げ入れて、このくじが水の中で溶けてしまうように謀ったので、
その後、
彼の目論見通りに、第一のくじを得たテーメノスがアルゴスを、第二のくじを得たプロクレースがラケダイモンを、そして、クレスポンテースは残された三つ目の地にあたるメッセニアを統治することが定められることになり、
こうしてヘラクレスの子孫にあたるヘラクレイダイからは、テーメノスとクレスポンテースとアリストデーモスの三兄弟を始祖とする
アルゴス王家とスパルタ王家とメッセニア王家という三つの王家が分立していくことになります。
そして、この時、彼らが犠牲を捧げた祭壇の上には、
アルゴスを得たテーメノスには蟇蛙(ひきがえる)、ラケダイモンを得たプロクレースには竜、そして、メッセニアを得たクレスポンテースには狐の徴(しるし)が現れることになるのですが、
これらの三つの徴に関しては、
蟇蛙の徴を得たアルゴスの人々は自らは動かずにその土地に長くとどまり続けることになり、竜の徴を得たラケダイモンの人々は恐ろしい攻撃者となり、狐の徴を得たメッセニアの人々は計略と狡知に長けた者たちとなることが予言されることになります。
そして、
こうしたそれぞれの都市を象徴する三つの動物の姿に示されているように、やがて、メッセニアの人々は、のちにスパルタと呼ばれることになるラケダイモンの人々によって力によって征服されて奴隷の身分へと落とされることになるのですが、
その後、狡知に長けた彼らはギリシア本土のテーバイの軍勢に救援を求めてスパルタを破ることによって再び独立を回復することになるのです。
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