テーバイを追放されたヘラクレスの放浪の旅とデルポイでの二つの神託の言葉、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑧
前回書いたように、女神ヘラによって心の内へと吹き込まれた狂気に駆られて錯乱状態へと陥ってしまったヘラクレスは、
わけも分からぬまま、自らの手によって、王女メガラとの間に生まれた三人の息子たちと二人の甥っ子たちを炎の中へと投げ込み焼き殺してしまうことになります。
テーバイを追放されたヘラクレスの放浪の旅とデルポイへと向かう贖罪の旅
そして、その後、
たとえ、女神ヘラによって吹き込まれた狂気が原因だったとはいえ、自らの手で最愛の家族の命を奪ってしまったことで、自分で自分のことを許すことができなくなってしまったヘラクレスは、
自らの手で自分自身に対して追放の刑を下すことによって、生まれ故郷であったテーバイと、ただ一人残された最愛の妻であるメガラのもとを離れ、故郷と家族とを捨て去り、行く当てもない放浪の旅へと一人赴いていくことになります。
そして、
そうしたギリシア各地をめぐる放浪の旅の末に、かつて自分が獅子退治をして名を挙げたキタイロン山の近くにまでやって来たヘラクレスは、
この地を治めていて、かつてヘラクレスに獅子退治を頼んだうえで、彼のことを五十日間にわたって歓待したテスピオス王と再び出会い、
この地で罪を清めるための儀式を受けたのち、王の説得によって、この行く当てのない放浪の旅を終えて新たな運命の導きを得るために、ギリシアの人々に神託を下すアポロン神殿のあったデルポイの地へと赴いていくことになるのです。
デルポイのアポロン神殿でヘラクレスに与えられた二つの神託の言葉
そして、
デルポイへと到着したヘラクレスは、この地でアポロン神殿に仕えるピューティアとも呼ばれる巫女たちに、神々が下す神託の言葉を求めることになるのですが、
そうしたヘラクレスの問いに対して、ピュートーの巫女たちは、
「汝はティリンスの地に住み、この地にほど近いミケーネの王エウリュステウスに十二年間仕え、彼に命じられる十の功業を成し遂げることになるだろう。」
そして、「十の功業を完成させたのちには、汝は不死の力を得ることになるだろう。」という二つの神託の言葉を授けることになります。
ところで、
こうしたデルポイの神託の言葉において語られているエウリュステウスと呼ばれる人物は、
かつて、女神ヘラの策略によって運命をねじ曲げられ、ヘラクレスよりも先に生まれることによって、本来はヘラクレスに与えられることになっていたミケーネの王位の座つくことになった人物にあたり、
言うなれば、ヘラクレスから王位を簒奪する形でアルゴス全土を支配するミケーネの王となった人物として位置づけられることになるのですが、
ヘラクレスは、図らずも自らの手で最愛の家族の命を奪ってしまったことに対する贖罪を成し、不死の力という神にも至らんとするさらなる力を得るために、
本来は自分がつくべきであったミケーネの王の座につくエウリュステウスのもとで下僕として仕えるという屈辱を味わいながら、王から与えられる十の難題を解決して功業を成し遂げていくという
のちに、厳密な意味での難題の解決が認められなかった二つの功業も合わせてヘラクレスの十二の功業と呼ばれていくことになる苦難に満ちた冒険の旅へと赴いていくことになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの第一の功業とネメアの獅子との三日三晩にわたる死闘、ヘラクレスの十二の功業①
前回記事:ヘラクレスの狂気と王女メガラとの間に生まれた三人の息子たちの死、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑦
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