「日出づる」と「日出ずる」はどちらが正しい表記なのか?『隋書』東夷伝倭国条における「日出づる処の天子」の記述

前回書いたように、現代の日本語においては、出雲大社などで有名な島根県東部の旧国名のことを異名する「出雲」(いずも)や、日本という国を表す美称として用いられる「日出ずる国」といった言葉は、

「出」という漢字の読み仮名送り仮名として、「づ」ではなく「ず」を用いる形で表記されるのが一般的であると考えられることになるのですが、

その一方で、

「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す」という日本史の資料などにおいて出てくる聖徳太子の言葉でもあるともされる有名な一節のなかでは、

こうした「出」という漢字の送り仮名には「ず」ではなく「づ」が用いられる形で表記される場合が多いと考えられることになります。

それでは、こうした「日出ずる国」「日出づる処の天子」といった表現において用いられている「日出ずる」と「日出づる」という言葉は、

どちらの方がより正しい表記のあり方であると考えられることになるのでしょうか?

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『隋書』東夷伝倭国条における「日出づる処の天子」の記述と古典史料における歴史的仮名遣いに従った適切な訓読のあり方

まず、冒頭で挙げた

日出づる処(ところ)の天子、書を日没する処(ところ)の天子に致す。恙無(つつがな)きや、云云(うんぬん)…」

と続く日本史の資料における文言は、

西暦607年に、聖徳太子が摂政をつとめていたとされる推古天皇の時代の日本から、当時、中国全土の統一を果たしていた隋の皇帝である煬帝(ようだい)へと遣わされたとされている国書のうちに記されていたとされる言葉であり、

具体的には、中国側の史料にあたる『隋書』東夷伝倭国条などにおいて記録されていた文言であると考えられることになります。

そして、

このように、上記の言葉の出典となっている史料が『隋書』という中国側の史料であるということは、

当然、そうした原典における文言自体は、漢文体、すなわち、漢字だけで記された史料ということになり、

具体的には、『隋書』東夷伝倭国条における上記の言葉の記述は、

日出處天子致書日沒處天子無恙云云」

という形で記されています。

したがって、

そうした原典となる史料自体からは、上記の文言自体の日本語における送り仮名の表記のあり方は、

「日出づる処の天子」「日出ずる処の天子」のどちらの方がより正しい表記のあり方であるかは判然としないと考えられることになるのですが、

その一方で、

こうした古典時代における史料の文言については、一般的に、当時の言語体系や文法体系のあり方を尊重して、現代仮名遣いではなく歴史的仮名遣いに従った表記が用いられることが通例となっているので、

そうした古典史料の一般的な訓読の仕方の原則に基づいて、上記の『隋書』に記されている日本から隋へと送られた国書の文言については、「日出づる処の天子」という歴史的仮名遣いに基づいた表記が用いられていると考えられることになるのです。

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「日出づる処の天子」と「日出ずる国」という二つの言葉における仮名遣いの用いられ方の違い

それに対して、

冒頭で挙げた現代の国語辞典などにおいても記載されている「日出ずる国」といった言葉については、

上記の『隋書』における国書の文言と同様に、「日出づる」や「日出ずる」といった同じ言葉のフレーズが用いられてはいるものの、

こちらの言葉の方は、現代日本語における日常的な表現としても広く用いられている言葉として位置づけられることになるため、

こうした言葉においては、「日出ずる国」という現代仮名遣いに従った表記が用いられていくことになったと考えられることになります。

つまり、

「日出づる」と「日出ずる」という言葉の表記のあり方については、

現代の日本語においても、日本という国を表す美称として用いられる「日出ずる国」といった言葉においては、

「日出ずる」という現代仮名遣いに従った表記を用いるのも正しい表記のあり方であると考えられることになるのですが、

それに対して、

「日出づる処の天子」という言葉は、聖徳太子が摂政をつとめていた時代の日本から隋の煬帝に対して送られた上記の歴史的な国書の文言が非常に強く連想される言葉であると考えられることになるので、

やはり、こちらの言葉の場合は、そうした古典時代の国書における歴史的な文言の記述のあり方を尊重して、

「日出づるという歴史的仮名遣いに従った表記を用いる方が、より適切で正しい表記のあり方であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:「日出づる処の天子」とは誰か?①候補となる四人の人物の名前とは?『隋書』における倭王多利思比孤の記述との関係性

前回記事:「出づる」と「出ずる」はどちらが正しい表記なのか?「出雲」や「日出ずる国」といった言葉における読み仮名と送り仮名

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