フランケンシュタインの原作の小説と現代における怪物のイメージの違いとは?教養と人間性を持つ名もなき怪物の姿
現代のイメージでは、フランケンシュタインというと、通常の場合、
人造人間を創造するという野望に取り憑かれた狂気の博士によって死体がつなぎ合わせられていくことによって造り出された醜悪な姿をした怪物の名前のことを意味することになると考えられることになりますが、
こうしたフランケンシュタインという言葉は、もともと、
19世紀のイギリスの女流作家であったメアリー・シェリーが1818年に匿名で出版した小説である『フランケンシュタイン』(Frankenstein)という本の題名に由来する言葉であると考えられることになります。
そして、その一方で、
こうした狂気の博士によってつぎはぎの死体から造り出された理性を持たない凶暴な怪物としての醜悪な姿をした人造人間の怪物の名前としてのフランケンシュタインの現代におけるイメージと、
この物語の原作となった小説の内容との間には、以下で述べるような三つの点において、大きなイメージの違いがあると考えられることになります。
錬金術と科学を学ぶ大学生であったヴィクター・フランケンシュタインによる人造人間の生成の実験
そうすると、まず、
こうした現代におけるフランケンシュタインという言葉の由来となった原作の小説のなかでは、
もともと、物語の主人公は、つぎはぎの死体から造られた醜悪な人造人間としての怪物の側ではなく、そうした怪物を造り出してしまったスイス出身の科学青年となっていて、
そうした怪物の創造者となった科学青年の名であったヴィクター・フランケンシュタインという名前がそのままこの小説の題名となっていると考えられることになります。
そして、この小説のなかでは、
ドイツの大学で自然科学を学ぶ科学好きのスイス人の大学生であったヴィクター・フランケンシュタインは、生命の謎を解き明かすという科学的な探求心のために、
墓から死体を掘り出してつなぎ合わせていくことによって、身長が2m40cmにもおよぶ巨人の姿を造り上げたのち、
そのつぎはぎの死体に中世の錬金術と現代の科学技術を駆使した秘法によって命を吹き込むことによって、醜悪で巨大な姿をした人造人間の怪物が誕生することになるのです。
教養と人間性を持つ名もなき怪物としてフランケンシュタインの怪物の姿
そして、
こうした科学青年であったヴィクター・フランケンシュタインの手によって造り出された醜悪な姿をした人造人間の怪物に対しては、この小説のなかでは特定の名前が与えられることはなく、
その後、この醜悪な姿をした名もなき怪物は、彼が取り残された山の中をさまよっていくうちに、山小屋に住む貧しい人々と出会って人間の言葉を理解するようになり、
森の中に落ちていたカバンの中にあった本を読んでいくことや盲目の老人との会話などを通じて、様々な教養や人間性まで身につけていくことになるのですが、
その一方で、こうして教養と人間性とを身につけていくことになった名もなき怪物は、その醜さゆえに、彼が行く先々で迫害に遭って苦しめられていくことになります。
そして、その後、
そうした自らの醜い姿に絶望した名もなき怪物は、自分の創造主であるヴィクター・フランケンシュタインのことを深く憎むようになっていき、
ヴィクターの弟であったウィリアムや、彼の友人であったクラーヴァル、そして、彼の結婚相手となったエリザベスといったヴィクターの周りの人物たちは、次々にこの怪物の手によって殺されていってしまうことになります。
そして、今度は、反対に、
そうした自分の大切な人々を殺されたことに対する復讐のために、この怪物を追って北極にまで赴いていくことになったヴィクター・フランケンシュタインは、
北極点へと向かう旅の途中で力尽きて、この地を訪れていたイギリス人の北極探検隊の隊長であったウォルトンに、自分の代わりにこの怪物を殺すように頼んで息を引き取ると、
その後、彼の遺体の前に、かの怪物が現れることになり、
自らの創造主であるフランケンシュタインの死を嘆きながら自分も自らの体を焼いて命を絶つと言い残して北極点へと向かって消えていくことになるこの名もなき怪物の後ろ姿を残して、物語は終幕を迎えることになるのです。
フランケンシュタインの怪物の原作の小説と現代における三つのイメージの違い
以上のように、
こうしたフランケンシュタインの怪物の現代におけるイメージと、その由来となった原作の小説の内容における具体的なイメージの違いとしては、
①フランケンシュタインという名前は、現代のイメージではつぎはぎの死体から造り出された怪物自身の名前を意味することが多いのに対して、原作の小説ではこの物語の主人公でもある怪物の創造者となった科学青年の名であったヴィクター・フランケンシュタインのことを意味している。
②フランケンシュタインの怪物を造り出した人物は、現代のイメージでは狂気に取り憑かれた博士のイメージが強いのに対して、原作の小説では怪物を造り出した人物であるヴィクター・フランケンシュタインは博士号を持たない錬金術と科学に熱中しているただの大学生という設定になっている。
③フランケンシュタインの怪物のキャラクターは、現代のイメージでは理性を持たない凶暴な怪物としてのイメージが強いのに対して、原作の小説では人間の言葉を理解して深い教養も持っているがゆえにより強く思い悩んでいくことになる名もなき怪物の深い苦しみが描かれている。
といった全部で三つの点において、大きなイメージの違いがあると考えられることになるのです。
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