ヘラクレスの息子の代でのペロポネソス半島の征服と疫病の理由を告げる神託の言葉、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語②
前回書いたように、英雄ヘラクレスが火葬壇の火炎の中で息絶えるという壮絶な死を遂げて、雷鳴と共に天空へと運び上げられていくことによって神の座へと引き上げられていったのち、
地上の世界に残されることになったヘラクレイダイと呼ばれるヘラクレスの子孫たちは、彼らによって自らの王の座を脅かされることを恐れたミケーネの王エウリュステウスから迫害を受け、命を狙われていくことになるのですが、
英雄テーセウスの息子であったアテナイの王デーモポーンによる庇護を受けて、アテナイの軍勢と共にエウリュステウスと戦うことになったヘラクレイダイたちは、
ヘラクレスが残した一人娘であったマカリアの犠牲を経たうえで、ミケーネの王エウリュステウスと彼の五人の息子たちを殺すことによって、それまでの長きにわたる迫害への復讐を果たすことになります。
ヘラクレスの息子の代におけるペロポネソス半島の征服と疫病の蔓延
そして、その後、
ミケーネの大軍を打ち破った勢いを駆って、そのままコリントス地峡を越えてペロポネソス半島へと侵入したヘラクレスの息子であったヒュロスを筆頭とするヘラクレイダイの軍勢は、
そのままこの地にあったすべての都市を攻略して自らの支配のもとに従えていくことによって、かつて彼らの父であった英雄ヘラクレスが成し遂げたように、ペロポネソス半島全土を支配するギリシア世界の盟主として君臨していくことになります。
しかし、
こうしてヘラクレスと彼の正妻であったデイアネイラとの間に生まれた長男ヒュロスを筆頭とする四人の息子たちと彼らの子孫のことを意味するヘラクレイダイたちがペロポネソスの地を征服してから一年も経たないうちに、この地では疫病が蔓延していくことになるのです。
疫病の理由を告げる神託の言葉とヘラクレイダイのさらなる受難
そして、
こうした一連の出来事を不審に思ったヘラクレイダイたちは、ペロポネソスの地へと帰還するという自分たちの行為が神意に背くような誤った行いではないことを確かめるために、デルポイの神殿への使者を立てることになるのですが、
彼らが立てたデルポイの神殿への使者がもたらした神託の言葉によって、
ペロポネソスの地にもたらされた疫病は、ヘラクレスの子孫である彼らが、定められた時よりも前にこの地へと帰還してしまったために引き起こされた災いであるということが告げられることになります。
彼らの父であったヘラクレスは、ヘラクレスの十二の功業として知られるような様々な偉業を成し遂げた偉大なる英雄であり、数多くの善いことを行ってきたのですが、
それと同時に、彼は、
女神ヘラの狂気に駆られて彼の最初の妻であったメガラとの間に生まれた三人の子供をすべて焼き殺してしまうといったこともあれば、
酒宴をめぐる争いの際に、ケンタウロスの賢者ケイロンのことを誤って毒矢で射抜いてしまい、結果として彼を死に至らしめてしまうといったこともあったように、数多くの悪しき行いもしてきたため、
つまりは、
そうした彼らの父の代において行われた罪の穢れがいまだ清められていない時に、彼の子孫にあたるヘラクレイダイたちペロポネソスの地へと帰還してしまったことによって、
ヘラクレスの一族の罪によって汚されることになったこの地で疫病が広がっていくことになったと考えられることになるのです。
そして、
こうした神託の言葉を聞き入れたヘラクレスの息子であったヒュロスを筆頭とするヘラクレイダイたちは、せっかく手にしたペロポネソスの地を放棄して、
彼らのことを庇護してくれていたデーモポーン王が治めるアテナイに近いマラトンの地へと退いていくことになり、
こうして彼らは、
ヘラクレスの父にあたるゼウスが祀られた神殿があったこの地において、再びペロポネソスの地へと帰還することが許されることになる神々が告げる定められた時をひたすら待ち続けていくというさらなる受難の時を過ごしていくことになるのです。
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次回記事:ヒュロスとエケモスの一騎打ちとヘラクレイダイの帰還の時を告げる謎めく神託の言葉、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語③
前回記事:ヘラクレスの母アルクメネによるエウリュステウスへの復讐と娘マカリアの犠牲、ギリシア神話のヘラクレイダイの物語①
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