万里の長城を舞台とした映画『グレートウォール』に登場する饕餮(トウテツ)と中国神話の関係とは?

2016に制作され、日本では2017年に公開されたチャン・イーモウ(張芸謀)監督、マット・デイモン主演の中国とアメリカの合作映画である『グレートウォール』(The Great Wall、長城)においては、

トウテツという名で呼ばれる怪物が万里の長城へと迫り、この長大な城壁を乗り越えて宋の時代の中国の都へと迫ろうとする最中、

ヨーロッパからこの地へと流れ着いた歴戦の傭兵であるマット・デイモンが演じるウィリアムが、皇帝を守護する禁軍の隊長であり、新たに女将軍となるリン・メイと協力して、怪物を打ち滅ぼすというアクション歴史ファンタジーが描かれています。

そして、

こうした現代のハリウッド映画においても登場するトウテツと呼ばれる怪物は、そもそもは、古くは殷や周の時代にまでさかのぼる中国神話において出てくる悪神や悪獣のことをモチーフとしていると考えられるのですが、

それでは、そうした映画『グレートウォール』に登場するトウテツと、中国神話における饕餮との間には、具体的にはどのような共通点と相違点が見られると考えられることになるのでしょうか?

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映画『グレートウォール』のトウテツと中国神話における饕餮との関係

詳しくは前回の記事で書いたように、中国神話における怪物としての饕餮の姿についての記述がなされている古代の代表的な文献としては、

紀元前5世紀の魯の国の書である『春秋左氏伝』や、紀元前3世紀の秦の時代の書である『呂氏春秋』などが挙げられ、これらの古代の書物においては、

財を貪るを饕(トウ)といい、食を貪るを餮(テツ)という」(『春秋左氏伝』)

「周鼎に饕餮を著し、首ありて身なし」(『呂氏春秋』)

といった形で饕餮という怪物についての言及がなされています。

つまり、

中国神話における饕餮とは、財貨や食物といったこの世界に存在するあらゆるものを貪り尽くしていくという人間における際限のない貪欲さを体現した怪物であり、

あらゆるものを貪り食うために必要な大きな口が開いた巨大な頭部があるだけで、そのあまりの貪欲さから、自らの体をも食らってしまうために首から下の体はなくなってしまったとも言われている貪欲と貪食を体現した悪獣であると考えられるということです。

また、

紀元後3世紀頃までには編纂されていたと考えられる『山海経』などの地理誌や民俗資料においては、饕餮と呼ばれる怪物についてのより具体的なイメージを持った描写がなされていて、

そこでは、

饕餮あるいは狍鴞(ほうきょう)と呼ばれている怪物は、胴体は羊か牛のようであり、頭と爪は人間に似ているが、脇の下に目があり、羊のように曲がった角虎のような鋭い牙を持つといった描写がなされています。

それに対して、

映画『グレートウォール』に登場するトウテツは、敏捷な肉食恐竜を思わせるような大型の爬虫類系の形態をしていて、トカゲのように大きく裂けた口鋭く並んだ牙を持ち、獣のような四つ足で大地を駆け、人間の体でいうと肩や脇の部分にあたるような頭部に近い体の側面に目の付いた姿をしているほか、

トウテツたちの頭目である女王には皮膜に覆われた二本の角のようなものも見られることになるのですが、

このように、

『グレートウォール』に登場するトウテツの姿は、前述した『山海経』などにおいて記されている中国神話における饕餮非常によく似通った姿形をしていると考えられることになります。

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貪食と貪欲を司る悪獣としての饕餮と戦乱を司る古代神である蚩尤へとつながるイメージ

以上のように、

映画『グレートウォール』において登場するトウテツと呼ばれている怪物の姿は、基本的には、中国神話において貪食や貪欲といった悪徳を体現する悪神や悪獣の姿のことを意味していると考えられ、

特に、そうした中国神話のなかでも、『山海経』のような比較的後代になってから記されたと考えられる具体的な姿形を持った饕餮像をモチーフとして映画内における饕餮の姿が形づくられていると考えられることになります。

ちなみに、

映画『グレートウォール』においては、トウテツの大軍が長城へと攻めかかっていく最中、万里の長城が突如として現れた霧によって包まれ、視界を遮られた禁軍の側が大いに苦戦を強いられるという印象的なシーンが出てくるのですが、

それに対して、

中国神話のなかでは、古代の兵(つわもの)の神である蚩尤と、漢民族の祖ともされる伝説上の帝王である黄帝(こうてい)が互いの覇権をめぐって争う古代中国の神話の時代における最終戦争を繰り広げ、

蚩尤は、大地の底に蠢く魑魅魍魎をも率い、妖術を駆使して天変地異を引き起こすことによって黄帝の軍勢を霧によって包んで苦しめるという場面が出てくることになります。

そして、

前回も書いたように、中国神話においては、悪神としての饕餮は、しばしば、こうした蚩尤(しゆう)と呼ばれる古代の戦神とも同一視されることになるのですが、

そういう意味では、

こうした映画『グレートウォール』において描かれている万里の長城を越えて戦乱を引き起こし、都市を次々に飲み込んで、大地に生きるすべてのものを貪り尽くしていくトウテツの姿からは、

中国神話において貪食と貪欲を司る悪獣としての饕餮の姿のほかに、戦争と武器を司り、己の力の及ぶすべての場所に戦乱を引き起こす破壊神としての蚩尤へとつながるイメージなども読み取ることもできると考えられることになるかもしれません。

・・・

次回記事:禁中・禁裏・禁軍といった言葉に「禁」の字が用いられている理由とは?

前回記事:饕餮(とうてつ)とは何か?青銅器の文様や『山海経』における姿形の具体的な描写と古代の戦神である蚩尤との関係性

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