ネクローシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な六つの特徴

細胞死のあり方は、一般的には大きく分けて、前回取り上げたアポトーシスと呼ばれる死のあり方と、ネクローシスと呼ばれる死のあり方の二通りの死のあり方があると考えられることになるのですが、

このうち、今回取り上げるネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方は、

一言でいうと、

外傷火傷細菌感染血流不全などをきっかけとする細胞の外的な要因によって引き起こされる突発的で受動的な細胞死のあり方であると考えられることになります。

今回は、こうしたネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方が、より具体的にはどのような死のあり方であるのか?ということについて、

 ネクローシスという言葉の語源と、その生物学的な特徴について順番に挙げていく形で詳しく考えてみたいと思います。

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ネクローシスのギリシア語における語源と死体や死者の魂のことを意味するネクロの意味

まず、

ネクローシス(necrosisとは、

ギリシア語において「死」「死体」のことを意味するnekros(ネクロス)という単語から派生した言葉であると考えられることになります。

現代英語においても、こうしたギリシア語のnekuros(ネクロス)を語源とする言葉であるnecro-(ネクロ)は、「死」や「死体」のことを意味する接頭辞として用いられていて、

例えば、英語で

necrology(ネクロロジー)と言えば、それは、死亡者名簿や、新聞における死亡記事のことを意味することになりますし、

necropolis(ネクロポリス)と言えば、死都すなわち廃墟となった都市や、古代都市における大墓地古墳などのことを意味することになり、

necromancy(ネクロマンシー)と言えば、それは、死者の魂を呼び起こす魔術、すなわち、降霊術黒魔術のことを意味することになります。

そして、

こうしたギリシア語のnekros(ネクロス)から派生したnecrosis(ネクローシス)という言葉は、もともとのギリシア語の意味においては、

「死をもたらす行為」すなわち殺害行為や、「死へと至る段階」のことを意味する言葉であったと考えられることになるのですが、

こうしたギリシア語の語源における意味に基づくと、生物学におけるネクローシスという言葉は、

生物体を構成する細胞が、外傷や細菌感染などの影響によって外部から深刻なダメージを被り、自らの構造を保つ限界を超えてしまうことによって崩壊と死滅の過程にあるという意味において、

そうした破壊的な死へと至る途上の状態にあるということを意味する言葉であると考えられることになるのです。

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ネクローシスの生物学的な六つの特徴と無秩序で破壊的な死のあり方

そして、

こうしたネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方においては、

まず、

外部からダメージを与えられた細胞は、代謝不全を起こすことによって、細胞内部に老廃物や不要なタンパク質や脂質などの細胞にとって有害な物質をため込んでいってしまうことになり、それによって徐々に細胞全体が膨張していくことになります。

そして、その際、

そうした細胞内の老廃物や有害物質の影響によって、ミトコンドリアゴルジ体小胞体リソソームといった細胞内の個々の細胞小器官も膨張していき、膜構造などが弱体化することによって徐々に崩壊していくことになるのですが、

その一方で、

細胞核の内部においては、徐々に核が萎縮していく核収縮が引き起こされることになり、

さらに、こうした萎縮した細胞核の内部では、細胞の遺伝情報を担うDNAが細胞核内に存在する酵素によって分解されて破壊されていく核溶解と核崩壊が進んで行くことになります。

そして、

細胞内の不要物の増加による細胞内圧の増大と、リソソームなどの細胞小器官から流出した分解酵素による自己融解作用の影響などによって細胞全体を一つに取りまとめている細胞膜がその強度の限界を超えると、

細胞膜が崩壊することによって、ダムが決壊するような破壊的な形で細胞全体が完全に崩壊してしまうことになるのです。

また、

こうしたネクローシスによる細胞の崩壊と死滅が進展していく際には、

上述したような細胞膜の崩壊を通じて、分解酵素を含む細胞内の様々な有害物質がネクローシスを引き起こした細胞の周辺にばらまかれてしまうことによって、細胞周辺に炎症反応が引き起こされてしまうことになるのですが、

こうした個々の細胞におけるネクローシスやそれによって引き起こされる炎症反応からは、その影響を受けて近隣の細胞にも深刻なダメージが生じてしまうことによって、

さらに連鎖的な形で次々とネクローシス(壊死)が発生していってしまうという個体としての生命全体にとってより危機的な事態が生じてしまうケースへとつながっていってしまう危険性もあると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ネクローシス(necrosisとは、ギリシア語において「死」「死体」のことを意味するnekros(ネクロス)という単語から派生した言葉であり、

こうした言葉自体の意味としては、細胞あるいは細胞によって構成される個体としての生物全体が「死へと至る段階」にあることを意味する言葉であると考えられることになります。

そして、

こうしたネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方の生物学的な特徴としては、それが、

①細胞の外的な要因によって引き起こされる細胞の無秩序で受動的な死のあり方であり、

ネクローシスの過程においては、

②細胞内部に老廃物や不要なタンパク質や脂質などの細胞にとって有害な物質がため込まれていくことによって細胞全体が膨張していくことになるのですが、

その際、

③ミトコンドリアや小胞体などの細胞小器官も膨張していき、膜構造が弱体化していくことになるのに対して、

④細胞核においては徐々に核が萎縮していく核収縮が引き起こされたのち、DNAが細胞核内の酵素によって無秩序な形で分解されていく核溶解と核崩壊が進んで行くことになり、

⑤最終的に、細胞内圧の増大と、リソソームなどの細胞小器官から流出した分解酵素による自己融解作用に耐えられなくなった細胞膜が崩壊することによって細胞全体の崩壊と死滅が引き起こされることになるということ、

そして、こうしたネクローシスと呼ばれる細胞死においては、

⑥細胞が崩壊する際に、ダムが決壊するような形で細胞内に含まれていた分解酵素有害物質が周囲にばらまかれてしまうことによって、細胞周辺に炎症反応が引き起こされてしまうことになる

といった全部で六つの主要となる生物学的な特徴を挙げることができると考えられることになります。

そして、そういう意味では、

こうしたネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方は、

ちょうど川の増水に耐え切れなくなったダムが決壊することによって下流にある町をも巻き込んで破壊してしまうことや、原子力発電所におけるメルトダウン事故を連想させるような

周辺の細胞環境に重大な悪影響を及ぼす無秩序で破壊的な死のあり方であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:アポトーシスとネクローシスの違いとは?八つの生物学的な特徴に基づく細胞死のプロセスのあり方の相違点

前回記事:アポトーシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な七つの特徴

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