藍藻(シアノバクテリア)は植物と細菌のどちらのグループに分類されるのか?、藍藻とは何か?②

前回書いたように、藍藻あるいはシアノバクテリアと呼ばれる生物は、光合成を行うことによって酸素を発生させる生物であるという点では植物の性質を有し、

核膜を持たずに細胞の内部でDNAがむき出しの状態で浮遊している原核生物であるという点では細菌の性質を有するという意味において、

細菌と植物の中間に位置する存在であると捉えられることになるのですが、

それでは、

こうした植物と細菌の両方の性質を持つ存在であると考えられる藍藻あるいはシアノバクテリアと呼ばれる生物は、

より厳密な生物学的な意味においては、植物と細菌のどちらのグループに分類する方が適切であると考えられることになるのでしょうか?

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藍藻(シアノバクテリア)における光合成色素の分布と葉緑体の有無

前回書いたように、藍藻(シアノバクテリア)の細胞内で行われる光合成においては、

緑色の色素であるクロロフィル(葉緑素)の他に、フィコシアニン(藍藻素)と呼ばれる青色の色素も用いられることになるのですが、

藍藻の場合、こうしたクロロフィルフィコシアニンと呼ばれる光合成色素は、一般的な植物の細胞のように葉緑体と呼ばれる細胞小器官の内にまとまって存在するわけではないと考えられることになります。

それでは、

藍藻の細胞内において、クロロフィルなどの光合成色素は具体的にどのような形で存在しているのか?というと、

核膜などの細胞内部における明確な区画の仕切りとなる組織を持たない原核生物である藍藻(シアノバクテリア)においては、

細胞核と同様に、ミトコンドリアや、葉緑体のような細胞の内部で明確な境界を持った区画を占める細胞小器官自体が存在しないため、

光合成を行うために用いられるクロロフィルなどの色素は、細胞膜の内側に広く分散するような形で存在していると考えられることになります。

つまり、

一般的な植物と同様に、藍藻と呼ばれる生物においても、光合成が行われることによって酸素が発生することになるという点では、両者の性質にある程度の共通点は見られるものの、

一般的な植物の細胞においては、光合成は葉緑体と呼ばれる光合成のために特化した細胞小器官の内部で行われるのに対して、

藍藻(シアノバクテリア)においては、そうした葉緑体と呼ばれる細胞小器官自体が存在せずに、光合成色素が細胞膜の内側全体に分布する形で、広く細胞全体で光合成が行われていくことになるという点において、

両者の間には、そうした光合成の具体的な仕組みのあり方に大きな相違点があると考えられることになるのです。

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光合成において酸素ではなく硫黄や硫酸を発生させる光合成細菌の種類

また、

このような藍藻(シアノバクテリア)と呼ばれる生物と同様に、葉緑体を持たずに光合成を行う細菌の種族としては、

他にも代表的なものとして、紅色硫黄細菌緑色硫黄細菌といった光合成細菌のグループが挙げられることになりますが、

こうした紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌と呼ばれる生物は、どちらも光エネルギーを使って炭水化物を合成することによって生活を営む光合成を行う生物でありながら、

そうした光合成の過程において、植物や藍藻における光合成とは異なり、酸素を発生させない形で光合成を行う生物の種族であると考えられることになります。

植物や藍藻が行う一般的な光合成においては、光エネルギーを利用することによって水(H2O)二酸化炭素(CO2という二つの物質からグルコース(C6H12O6)などの炭水化物が合成されることになり、その過程で、副産物として酸素(O2が放出されることになるのですが、

それに対して、

紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌では、光合成の過程において、水(H2O)ではなく、硫化水素(H2S)などの硫黄を含む物質が利用されることになるので、

光合成の副産物として生じる物質も、酸素(O2)ではなく、硫黄(S)や硫酸(H2SO4などの物質が生じることになると考えられることになります。

そして、こうしたことを踏まえると、

もしも、藍藻(シアノバクテリア)における光合成を行うという植物的な性質の方を重視して、光合成を行うすべての生物が植物に分類されるべきであると主張するとするならば、

こうした紅色硫黄細菌緑色硫黄細菌のような酸素ではなく硫黄や硫酸を放出する光合成細菌の種族も、藍藻と同様に植物の一種として分類されてしまうことになると考えられることになりますが、

同じ光合成を行う生物であるとはいっても、副産物として酸素を生成する生物と硫黄や硫酸を発生させる生物とを同列に扱うのはかなり違和感のある分類のあり方であると考えられることになります。

つまり、そういう意味では、少し逆説的な言い方にはなりますが、

藍藻(シアノバクテリア)と非常に似通った形で光合成を行う生物のグループである紅色硫黄細菌緑色硫黄細菌といった生物の種族を植物に分類することができない以上、

それと同様に、藍藻(シアノバクテリア)も、こうした紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌などの他の光合成細菌と同じように植物ではなく細菌に分類されることになると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

冒頭で述べた藍藻(シアノバクテリア)と呼ばれる生物は、植物と細菌のどちらのグループに分類する方がより適切な生物学上の分類であるのか?という問いについての答えとしては、

確かに、藍藻(シアノバクテリア)は、光合成を行って酸素を発生させる生物であるという点においては、植物と同様の働きを持つ生物であると考えられるものの、

藍藻においては、植物細胞に見られる細胞小器官である葉緑体が存在せず、クロロフィルなどの光合成色素が細胞膜の内側に広く分散する形で光合成が行われているといった点に、植物における光合成の仕組みとの間の大きな相違点が見られるほか、

藍藻(シアノバクテリア)と同様に葉緑体を持たずに光合成を行う生物のグループには、紅色硫黄細菌緑色硫黄細菌のように、光合成を行う過程で酸素ではなく硫黄や硫酸を発生させる生物も含まれてしまうことになるので、

こうしたことを踏まえると、結局、

藍藻(シアノバクテリア)と呼ばれる生物は、植物ではなく細菌に分類する方が、生物学的にはより適切な分類のあり方であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:植物の起源はシアノバクテリアなのか?真核細胞と光合成細菌の融合体としての植物細胞の起源、藍藻とは何か?③

このシリーズの前回記事:藍藻(シアノバクテリア)とは何か?①青色の光合成色素を持つ原核生物に分類される単細胞性の微細な藻類、藻類とは何か?⑨

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