錬金術師パラケルススによるホムンクルス(人造人間)の錬成、腐敗と血の犠牲が生む神秘的な知識を持つ小人、ホムンクルス③

前回書いた古代の魔術師シモン・マグスによる水から血、血から肉への人体の錬成の例に見られるように、

古代ローマの時代においても、空気や水や血液といった物質から人体やある種の生命体を人為的に創り出そうとする試みは、しばしば行われることがあったと考えられるのですが、

こうした人為的に創造された人間に類する生命体、すなわち、人造人間のことを指して「ホムンクルス」という言葉が明確に用いられるようになったのはヨーロッパが中世から近世の時代へと入ってからであると考えられることになります。

そして、

そうしたホムンクルスの名で呼ばれる人造人間の創造を試みた代表的な人物としては、パラケルススという名で知られる16世紀ドイツの錬金術師の名が挙げられることになります。

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ドイツの錬金術師パラケルススの著作における腐敗からの生命の錬成

パラケルスス(Paracelsusこと、

本名テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム(Theophrastus von Hohenheimは、

日本の落語で言うところの「寿限無寿限無…」を連想させるような

フィリップス・アウレオルス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム(Philippus Aureolus Theophrastus Bombastus von Hohenheim

というかつて彼の死後にその墓碑銘に刻まれていたとされる長大な名前によっても広く知られている中世が終わるルネサンス期を代表する錬金術師であり、医師占星術師としても知られる人物ですが、

そのパラケルススの著作である『事物の本性について』(“De natura rerum”、デ・ナトゥーラ・レルム)と題さる書物のなかでは、

人間の自然的な生殖によらずに、単独の生殖細胞から人為的な方法によって生みされる人造人間の製造方法のレシピのようなものが記されていて、

そこでは、そうした錬金術の力によって人為的に創り出された人間の存在が、はっきりと「ホムンクルス」という言葉として表記されていくことになります。

そして、

こうした『事物の本性について』において記されているホムンクルス(人造人間)の錬成方法の具体的な手順としては、

まず、

フラスコの上部から斜め下に向かって管が伸びるような形状をしたガラス製の実験器具であるレトルトの容器の内部に男性の生殖細胞を単独で入れて密閉したうえで、そこに腐敗の糧となる堆肥として馬糞のようなものを一緒に入れておき、

その容器の内部を常に馬の胎内の温度に近いだいたい摂氏40度くらいの温度高い湿度に満たされた状態に保っておくと、

そうした有機物の腐敗の中から、やがて、新しい生命が生まれ、容器の中で何か靄(もや)か煙のようなものが生気を得て蠢くのが見えるようになるとされることになります。

そして、

40日程度の時間が経過して、こうした腐敗からの生命の誕生の過程が成功のうちに完了すると、容器のなかに、人間と等しい構造を持つが、通常の意味における肉体は持たない透明な姿をした生命体が錬成されることになるのですが、

こうしたレトルトの容器の中で、単独の生殖細胞から腐敗の力によって生み出された人為的に創造された生命体のことを指して「ホムンクルス」という言葉が用いられることになるのです。

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血の犠牲によるホムンクルスの完成と神秘的な知識を持つ小人

しかし、この段階では、

いまだ、新たに創造されたホムンクルス(人造人間)不完全な状態にあり、

そうして創造されたホムンクルスに、人間の血液を犠牲として捧げる血の秘儀によってさらなる力を与え、さらに、40週間の間、引き続き温暖で多湿な環境を保ったうえで、こうした血の犠牲を払い続けることによって、

体は通常の人間の子供よりもさらに小さい「小人」(こびと)でありながら、生まれながらに神秘的な知識をもち、妖精か悪魔のような力強い生命力を持って活動する

ホムンクルス(人造人間)の創造が完成されることになると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

こうした中世の終わるルネサンス期を代表する錬金術師であるパラケルススの著作においては、

レトルトの容器の内部に入れられた単独の生殖細胞腐敗していく過程において生じるとされる人間と等しい構造を持つが通常の意味での肉体は持たない透明な姿をした生命体のことを指して「ホムンクルス」という言葉が用いられていて、

そうして新たに創造されたホムンクルス(人造人間)は、人間の血液を犠牲として捧げる血の秘儀によってさらなる力を与えられることによって、

体の大きさは人間の子供よりもさらに小さい「小人」でありながら、生まれながらに神秘的な知識を持ち、妖精か悪魔のような力強い生命力を持って活動する完成された存在へと高められていくとされることになります。

そして、

こうしたドイツの錬金術師パラケルススにおける腐敗からの人体の錬成という少々グロテスクなホムンクルス(人造人間)の創造のあり方が、

近代ヨーロッパにおいて、同じくドイツの詩人であるゲーテの『ファウスト』におけるホムンクルスの創造のより幻想的な描写へと変容していくことによって、

それが現代におけるホムンクルスの具体的なイメージへと直接つながっていくことになったと考えられることになるのです。

・・・

次回記事:ゲーテの『ファウスト』におけるホムンクルスの創造と、哲学の子としての人造人間の誕生、ホムンクルスとは何か?④

前回記事:古代の魔術師シモン・マグスによる水から血、血から肉への人体の錬成、ホムンクルスとは?②

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