理念の超越的な自己展開の力としてのヘーゲルにおける人間と国家の弁証法的発展の構造、ヘーゲル歴史哲学の整合的解釈③

前回書いたように、ヘーゲルの歴史哲学において示されている古代オリエントから近代ヨーロッパへと至る人類史の発展の構図においては、

古代オリエント世界におけるペルシア帝国のような専制国家や、近代ヨーロッパ社会における立憲君主制や共和制などの民主的な政体といった現実の国家における政治体制のあり方が一つの象徴とされることによって、

人間の意識の内にある普遍的な理念の次元における人類と国家の理念的な発展の構造が示されていると解釈することができると考えられることになります。

そこで、今回の記事では、前回までのヘーゲルの歴史哲学の概観に関する一連の考察シリーズのまとめとして、

現実の国家においては決して理想的な形でそのまま実現されることはあり得ないこうした理念の次元における人類と国家の発展の構造を考えることに具体的にどのような意味があるのか?ということについて改めて考えていきたいと思います。

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個体としての人間の成長と発展の構造の内にある意志と理念の働き

そうすると、まず、

こうした人類という存在についての理念の次元における発展の構造は、その集合体あるいは統一体としての国家や民族といった存在についてだけではなく、それぞれの国家や民族を構成する個体としての人間においても同様に見いだすことができると考えられることになりますが、

例えば、

そうした個体としての人間は、それぞれの人生の歩みの中で成長し、自らの人格を発展させていく存在として捉えることができると考えられることになります。

そして、

そうした個々の人間における人格の成長と発展のあり方は、

子供から大人、あるいは、青年期から壮年期を経て老年期へと至るそれぞれの発達段階における課題を順々にクリアしていくことによって、自らの内により優れた安定した人格を形成していくという理念上の理想的な図式通りに順調に一方向的に進展していくわけではなく、

むしろ、

現実における人間の成長と人格的な発展の歩みは、様々な偶発的な事象や外的な圧力の影響を受けて各段階の間を行きつ戻りつしながら、時には、今までに培ってきた人格的な発展の成果のすべてをいっぺんに失ってしまうような衝撃へと行き当たる危険性とも向かい合いながら進んで行く困難に満ちた複雑な歩みであると考えられることになります。

しかし、逆に言えば、

こうしたことは、人間は、たとえどのような厳しい状況にさらされ、そうした何らかの偶発的な事象や、外的な圧力によって自らの運命の進路をひどくねじ曲げられてしまった後でさえ、

その人が自らの意志と理念において、自分自身をそうした人格の成長と発展の構造の内に新たに位置づけ直していく限りにおいて、

 常に現在よりもより善いあり方を目指して自らの生き方を改善し続けていく力を自らの内に有した存在であるということを示してもいると考えられることになります。

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人類と国家の内にある理念の超越的な自己展開の力

そして、そういう意味では、

このように、個体としての人間の意識の内に、自分自身の人生と生き方を常により善い方向へと自ら発展させていくという超越的な自己展開の力が存在するのと同様に、

そうした人間の集合体としての国家においても、その構造の内において常に人間の自由を拡大していく方向へと自らを発展させていくという自らの内なる理念を自己展開していく力が存在すると考えられることになります。

つまり、

この記事の冒頭で挙げた、現実の国家においては決して完全な意味においては実現されることのない理念の次元における人類と国家の発展の構造について考えることにいったいどのような意味があるのか?という問いに改めて答えるとするならば、

それは、

現実の世界における一つ一つの国家と人類全体の発展の原動力として、そうした人間と国家の内部で働く理念の自己展開の力が存在するということを明らかにしていくことになるという点において、意味があると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ヘーゲルの歴史哲学においては、専制政治から貴族制を経て、万人が自由な真の民主主義の実現へと至る普遍的な理念の次元における人類と国家の発展の構造が示されていくことを通じて、

個別的な人間と国家が存在する現実の次元においては、一つ一つの国家と一人一人の人間において、そうした普遍的な理念が自らの内で自己展開していくという

人間と国家の内部における理念の超越的な自己展開の力の存在が明らかにされていると考えられることになります。

そして、そうした意味において、

人間と国家という存在は、それが実体を持った現実的な存在として現実の世界の内に存在し続ける限り

自らの内で働く理念の自己展開の力を原動力として、常に弁証法的に発展し続けていく存在であると捉えられることになるのです。

・・・

次回記事:ヘーゲルの弁証法の原型となる『精神現象学』における植物についての生命の弁証法的展開の構造

前回記事:普遍的な理念の次元における国家の発展構造の象徴としての現実の諸国家における政体の例示、ヘーゲル歴史哲学の整合的解釈②

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