グレートヘン、へレネ、聖母マリアという三人の永遠なる女性、『ファウスト』における「永遠なる女性」とは何か?①

「過ぎ去るものは映像に過ぎず」ファウスト終幕の神秘の合唱の記事で書いたように、

ゲーテファウスト』の終幕の場面では、死後に天上の世界へと引き上げられていくファウストの魂を祝福する神秘の合唱が歌われますが、

この神秘の合唱において語られるセリフの一節に、

永遠なる女性が我々を天上の世界へと引き上げるDas Ewig-Weibliche zieht uns hinan.)

という言葉が出てきます。

このDas Ewig-Weibliche永遠なる女性)という言葉は、具体的にどのような存在のことを指して語られていると考えられることになるのでしょうか?

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ドイツ語におけるDas Ewig-Weiblicheの意味とは?

まず、ドイツ語におけるDas Ewig-Weiblicheダス・エーヴィヒ・ヴァイプリヒェ)とは、

女性の」「女性的な」といった意味を表す形容詞weiblichヴァイプリヒ)が中性名詞化してdas Weiblicheダス・ヴァイプリヒェ)となり、

そこにさらに「永遠に」「非常に長い間」という意味を持つ副詞ewigエーヴィヒ)が付加語的に付け加わることによってできた合成名詞です。

したがって、

Das Ewig-Weiblicheダス・エーヴィヒ・ヴァイプリヒェ)という言葉をそのまま日本語に直訳すると、「永遠に女性的なるもの」といった意味を表す言葉として解釈することができると考えられることになります。

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グレートヘン、へレネ、聖母マリアという三人の永遠なる女性

それでは、『ファウスト』の終幕の場面において語られる「永遠なる女性」あるいは「永遠に女性的なるもの」とは、具体的にどのような存在のことを指してそのように語られているのか?ということについてですが、

それについては、『ファウスト』という作品の文中で語られている具体的な存在としては、グレートヘンと、美女ヘレネ、そして、聖母マリアという三人の女性の名が挙げられることになります。

グレートヘンGretchenとは、生前の本名はマルガレーテ(Margareteという名で、ファウストとの大恋愛の末に悲劇の死を迎えることとなった、彼にとっての現実の世界における最愛の女性であり、

それに対して、

ファウストがグレートヘンとの悲劇の別れの後に、美しいものを求めて、現実の世界だけではなく、神話や古典の世界をも旅した末に出会った美のイデアの化身ともいえる女性が、ギリシア神話に出てくる絶世の美女であるヘレネHeleneということになります。

古代ギリシア語での本来の表記はHelene(ヘレネ)だが、ドイツ語では通常Helena(ヘレナ)と表記され、『ファウスト』の文中における表記も後者の表記となっている。

そして、終幕の場面では、ファウストの魂は永遠なる愛の力による救済を受け、天上の世界の高みへとゆっくりと昇っていくことになりますが、

そうしたファウストを天上の世界へと導ていく天使たちの輪の中心にいる女性が、第三の「永遠なる女性」、すなわち、聖母マリアMariaということになります。

・・・

以上のように、ゲーテの『ファウスト』においては、

最愛の人グレートヘン(Gretchenと、美のイデアの化身である美女ヘレネ(Helene、そして、聖母マリア(Mariaという

三人の永遠なる女性がもたらす永遠なる愛の力によって、この物語の主人公であるファウストの魂は天上の世界へと引き上げられ、救済を得ることになったと考えられることになるです。

・・・

次回記事『ファウスト』における「永遠なる女性」とユングのグレートマザー、『ファウスト』における「永遠なる女性」とは何か?②

関連記事:「過ぎ去るものは映像に過ぎず」ファウスト終幕の神秘の合唱の全文和訳と対訳とドイツ語の発音、『ファウスト』の和訳と解釈⑰

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