「憂い」がファウストの耳元でささやく呪いの歌、『ファウスト』の和訳と解釈⑪

前回書いたように、『ファウスト』第二部第五幕の「真夜中」の章では、

欠乏」、「罪責」、「困窮」、「憂い」という四つの災厄の名を持つ四人の灰色の女たちがこの物語の主人公であるファウストのもとを訪れる場面が出てきます。

そして、四つの災厄のうち「欠乏」、「罪責」、「困窮」という三つの災厄はすぐに退けられてしまうのに対して、

ただ一人「憂い」だけが屋敷の中へと入り込み、彼のもとへと忍び寄って行くことになります。

このようにして、ひとたびファウストの心のすき間へと入り込むことに成功した「憂い」は、彼の心を惑わし、その心の内から意志の力とあらゆる活力をすっかり奪い去ってしまうような呪いの歌を彼の耳元で囁きはじめることになるのです。

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「憂い」がファウストの耳元でささやく呪いの歌のドイツ語原文

ファウスト』第二部第五幕の「真夜中Mitternachtミッターナハトゥ)」の章では、

ファウストの屋敷を訪れた四人の灰色の女のうち、ただ一人「憂い」だけが屋敷の中へと入り込み、彼のもとへと忍び寄って行くことになります。

そして、一人ファウストの心の隙間へと入り込んだ憂いが彼の耳元でささやく呪いの歌は、ドイツ語の原文では以下のように記されています。

・・・

SORGE:

Wen ich einmal mir besitze
Dem ist alle Welt nichts nütze,
Ewiges Düstre steigt herunter,
Sonne geht nicht auf noch unter,
Bei vollkommnen äußern Sinnen
Wohnen Finsternisse drinnen.

Und er weiß von allen Schätzen
Sich nicht in Besitz zu setzen.

Glück und Unglück wird zur Grille,
Er verhungert in der Fülle,
Sei es Wonne sei es Plage
Schiebt er’s zu dem andern Tage,
Ist der Zukunft nur gewärtig
Und so wird er niemals fertig.

「憂い」がささやく呪いの歌のドイツ語文と日本語文の対訳

そして、次に、上記のドイツ語原文を、発音とアクセントの目安を併記したうえで、ドイツ語原文と日本語との対訳形式で一行ずつ訳していくと以下のようになります。

ただし、ドイツ語文で強調して読まれるアクセントの目安については、ドイツ語文の下に記した発音を示すカタカナ表記を太字で記すことによって示すこととし、

日本語の訳文を書いた後の印の部分でところどころ簡単な文法上の注釈を付記している箇所があります。

また、ドイツ語文と日本語文との対訳関係がより分かりやすくなるように、日本語文の訳文において重要な意味を担う箇所を太字で記したうえで、それに対応するドイツ語文の箇所も太字にする形で記しています。

・・・

SORGEルゲ、憂い):

Wen ich einmal mir besitze
ヴェン・イヒ・インマール・ミア・ベズィッツェ)
ひとたび私に捕らえられた者は誰でも、

Dem ist alle Welt nichts nütze,
ム・イストゥ・レ・ヴェルトゥ・ヒツ・ニュッツェ)
その人にとって世界の全てが無意味になる

[3格]+nichts nütze sein:何の役にも立たない、無駄である

Ewiges Düstre steigt herunter,
ーヴィゲス・デューストレ・シュイクトゥ・ヘンター)
永遠の暗闇が下へと降りてきて

Sonne geht nicht auf noch unter,
ンネ・ゲートゥ・ヒトゥ・オフ・ノホ・ンター)
太陽は昇りも沈みもしなくなる

Bei vollkommnen äußern Sinnen
(バイ・フォルコンメン・イサーン・ズィンネン)
外側の感覚はすべて正常のままでも、

Wohnen Finsternisse drinnen.
ヴォーネン・フィンスターニセ・ドンネン)
内側が暗黒に蝕まれる

Und er weiß von allen Schätzen
(ウントゥ・エア・ヴァイス・フォン・レン・シェッツェン)
Sich nicht in Besitz zu setzen.
(ズィヒ・ヒトゥ・イン・ベズィッツ・ツー・ゼッツェン)
その人はありとあらゆる宝物を
何一つ自分のものとして自覚することができなくなる。

Glück und Unglück wird zur Grille,
(グリュック・ウントゥ・ングリュック・ヴィアトゥ・ツア・グレ)
幸福も不幸も共に悩みの種となり、

Er verhungert in der Fülle,
(エア・フェアンガートゥ・イン・デア・フュレ)
飽食のなかで飢え死にする

Sei es Wonne sei es Plage
(ザイ・エス・ヴォンネ・ザイ・エス・プーゲ)
歓喜であろうと苦悩であろうと

sei es~, sei es:~にせよ…にせよ。

Schiebt er’s zu dem andern Tage,
ープトゥ・エアス・ー・デム・ンダーン・ーゲ)
すべてをのちの日へと押しやってしまい

er’ser esの短縮形。

Ist der Zukunft nur gewärtig
ストゥ・デア・ークンフトゥ・ア・ゲヴェルティヒ)
ただ何もせずに未来を待ち受けるばかりで、

[2格]+gewärtig sein:~を予期している。

Und so wird er niemals fertig.
(ウントゥ・ー・ヴィアトゥ・エア・ーマルス・フェアティヒ)
決して何事も成し遂げることができなくなるのだ

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「憂い」がファウストの耳元でささやく呪いの歌の全文和訳

そして最後に、上記のドイツ語文と日本語文の対訳の中から、和訳の部分だけを抜き出して、改めて該当箇所の全文和訳を記す形でまとめ直すと以下のようになります。

・・・

憂い:

ひとたび私に捕らえられた者は誰でも、
その人にとって世界の全てが無意味になる

永遠の暗闇が下へと降りてきて
太陽は昇りも沈みもしなくなる

外側の感覚はすべて正常のままでも、
内側が暗黒に蝕まれる

その人はありとあらゆる宝物を
何一つ自分のものとして自覚することができなくなる。

幸福も不幸も共に悩みの種となり、
飽食のなかで飢え死にする

歓喜であろうと苦悩であろうと
すべてをのちの日へと押しやってしまい
ただ何もせずに未来を待ち受けるばかりで、
決して何事も成し遂げることができなくなるのだ

・・・

次回記事:「憂い」を退けるファウストの意志の力と彼に与えられる最後の試練、『ファウスト』の和訳と解釈⑫

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