インフルエンザにワクチン接種後にも感染してしまう理由とは?DNAウイルスとRNAウイルス②

インフルエンザなどのウイルス感染症では、一度ワクチン接種を行っても、その後すぐに感染してしまい病気を発症してしまうケースや、

もっと運が悪い場合では、実際に一度インフルエンザにかかって治った後ですら、同じシーズンの内に、またもう一度同じ種類のウイルスに感染してインフルエンザを発症してしまうことまであります。

ワクチンとは、あらかじめ弱毒化または不活化させたウイルスを人間の体内に送り込み、免疫細胞にウイルスの人相を覚えさせることによって、特定のウイルスが人体に感染して発症へと至るまでのプロセスを未然に防止する防護策であるはずなのですが、

ワクチンによって一度しっかりとウイルスの人相を覚えたはずの免疫系をすり抜けて、インフルエンザウイルスによる感染が生じ、病気の発症へと至ってしまうケースが生じてしまうのには、いったいどのような理由があると考えられることになるのでしょうか?

今回は、インフルエンザウイルスにおける遺伝子型の種類と、インフルエンザが属するRNAウイルスというウイルス遺伝子の構造自体の性質という観点からこの問題に迫ってみたいと思います。

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100種類以上の異なる遺伝子型を持つインフルエンザウイルスの種族

インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子の膜や核を構成するタンパク質の種類の違いに応じて、A型、B 型、Cという三種類の種族に大別されることになります。

そして、

それぞれの種族の中で、ウイルスが持つ遺伝子型の違いに応じてより細かい分類がされていくことになるのですが、

その中でも、特に、A型インフルエンザウイルスには遺伝子が異なる種類が多く、

HANAと呼ばれる二つの遺伝子の箇所の違いに応じて、現在までに知られているだけでHAについては16種類NAについては9種類の遺伝子型にウイルスの分類がなされることになります。

つまり、

A型インフルエンザウイルスだけに限っても、HAの16種類にNAの9種類を掛け合わせた合計で理論上は144種類もの異なる遺伝子型を持ったウイルスが存在しうると考えられるということになるのです

ちなみに、個々のインフルエンザウイルスの遺伝子型は、HA遺伝子とNA遺伝子のそれぞれの頭文字にあたるHNをとって、H1N1型インフルエンザH16N9型インフルエンザなどと表記されることになります。

もっとも、そうした理論上可能な遺伝子型を持ったウイルスが世界中ですべて同時に活動し続けているというわけではなく、

一般的には、一つのシーズンに流行するウイルスの種類は数種類程度であると考えられることになるのですが、

それでも、

それぞれのウイルスのHANAの型が少しでも違うと、人間の免疫系が同じウイルスであるとは認識できずに、ウイルスの排除に失敗してしまうケースが出てきてしまうことになるのです。

このように、

一度ワクチンを打った後でも、インフルエンザウイルスに感染し、インフルエンザを発症してしまうケースが生じてしまう理由としては、

まず第一に、

インフルエンザという同じ種類に属するウイルスであるとはいっても、その遺伝子型には100種類以上の多様な種類が存在するので、

その内の数種類のウイルスに対するワクチンを打っても、後で実際に感染したインフルエンザウイルスの遺伝子型がワクチンのものとズレてしまうと、

人間の免疫細胞にとっては同じインフルエンザウイルスとして正しく認識されないというケースが出てきてしまうことが挙げられることになります。

そして、もう一つの理由については、

インフルエンザウイルスのウイルスとしてのより根本的な構造、すなわち、RNAウイルスというウイルス遺伝子の構造自体にその原因が求められることになるのです。

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RNAウイルスにおける遺伝子の変異スピードの速さとワクチンの効力との関係

前回の記事で書いたように、

天然痘ウイルスなどの遺伝子が二本鎖から成るDNAウイルスの場合には、二本鎖のうちの一方の遺伝情報が傷ついてしまったときにも、もう片方の鎖の遺伝情報からの復元が行われることになりますが、

インフルエンザウイルスなどの一本鎖から成るRNAウイルスの場合には、そうした遺伝子構造上の修復機能が存在しないので、

ウイルスとしての遺伝的性質の安定性が低く、不安的な構造となってしまう反面、ウイルスが変異していくスピードも速いと考えられることになります。

そして、

このように遺伝子における変異のスピードが速いRNAウイルスについては、一度ワクチンを打って、特定のウイルス型に対する免疫力を獲得したとしても、その矢先からどんどんウイルスの側での遺伝子の変異が進んで行ってしまい、

ウイルスが変異していくスピードに、人間の免疫力のスピードが追いつかなくなってしまうケースが出てきてしまうと考えられることになります。

つまり、

天然痘ウイルスなどの遺伝的性質の安定性が高く変異のスピードが遅いDNAウイルスに対しては、一般的に、ワクチンは非常に有力な対抗手段となるのですが、

それに対して、

安定性が低い代わりに、ウイルスの型の変異のスピードも速いRNAウイルスの場合には、

天然痘ウイルスなどのDNAウイルスにおいて見られるほどのワクチン接種による劇的な効果を上げることはウイルス自体の性質から見ても比較的難しいケースがあると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

インフルエンザなどの場合に、ワクチンを打ってもその後で結局感染してしまうことがあったり、一度かかって治った後でも、もう一度感染して症状が出てしまうケースがある理由としては、一つには、

インフルエンザウイルスには、A型、B 型、C、そして、HANAと呼ばれる二つの遺伝子の箇所の違いに応じて100種類以上の異なる遺伝子型を持つ種族がいるというウイルスの種類や型の多さが挙げられることになります。

そして、もう一つの理由としては、

RNAウイルスであるインフルエンザウイルスの場合は、天然痘ウイルスなどのDNAウイルスに比べて増殖の際にウイルスが変化していくスピードが速く

そうしたウイルス自体の変異のスピードに対して、人間のリンパ球といった免疫系の方が、ウイルスの新しいデータを更新していくのが追いつかなくなってしまうというRNAウイルスにおける遺伝子の変異スピードの速さが挙げられることになるのです。

・・・

次回記事HIVウイルスの変異スピードが速い理由と多剤併用療法(HAART療法)の仕組み、DNAウイルスとRNAウイルス③

前回記事:天然痘ウイルスの撲滅にワクチン接種が有効であった理由とは?DNAウイルスとRNAウイルス①

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