生物における成長と進化の概念と恒常性の原理との関係、生命とは何か?⑤

このシリーズの第三回で考えたように、

自らの生命を維持するために、自分自身の内部環境を一定の状態に保つという生物における恒常性の機能は、自己複製の機能と並んで、生命を司る二大原理の内の一つにあたると考えられることになります。

しかし、その一方で、

生物の八つの定義とは何か?で書いたように、

生物を具体的に特徴づける主要な要素としては、生物の個体または種族全体における時間的な観点からの変化を表す概念である成長と進化という要素も挙げられることになります。

こうした生命の原理における恒常性進化という二つの原理は、互いにどのような関係にあると考えられることになるのでしょうか?

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不変性を求める恒常性の原理と、変化を求める成長と進化の原理

冒頭で述べたように、

恒常性の原理においては、現在存在する生命を維持するために、その生物自身の状態を常に一定の状態に保ち続けようとする力が働くことになります。

そして、それに対して、

成長と進化の原理においては、生物は、より生存に適した優れた状態を手に入れるために、個体としての自らの姿を時間と共に変化させていき、

そして、さらに長い年月の間には、自らの性質を次世代へと受け継いでいく遺伝子レベルでの変化も含めて、生物の種族全体の姿が大きく変容していくことになります。

つまり、

進化とは、生物がより生存に適した優れたあり方を求めて新しい種族へと変化していくあり方のことを示す概念であり、

生物において、恒常性現状を維持する力を示すのに対して、進化は現状を改善し新しく変化していく力であると考えられるということです。

このように、

現状の維持という不変性を求める原理である恒常性の原理と、現状を変革し、より優れたあり方へと自分自身を変容させていこうとする変化を求める原理である成長と進化の原理は、

一見すると、互いに真っ向から対立する相容れない概念であると考えられることになるのです。

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環境の変化に適応して新たなバランスを見いだす柔軟で能動的な恒常性の機能

しかし、その一方で、

このシリーズの前回の記事で書いたように、

生物における恒常性ホメオスタシス)の機能は、単に、盲目的に現在の状態を維持し続けようとする機械的で硬直的なあり方をしているわけではなく、

それは、変化していく状況と周囲の環境に合わせて、自らの生命を維持していくために必要な新たなバランスを見つけ出していく能動的で柔軟な側面を持った恒常性であると考えられることになります。

例えば、

人間の身体が子供から大人へと成長していくとき、その前後で身体の大きさや形などは大きく変わっていくことになるのですが、

そうした成長の各段階のそれぞれにおいて、体温や血圧、血糖値、活動と睡眠とサイクルといった基本的な恒常性のあり方は常に維持されていると考えられることになります。

そして、

そうした生命の恒常性は、成長の前後で全く同じ形で維持されているわけではなく

子供の時には長かった睡眠時間が大人になるにつれて徐々に短くなり、それに対して日中の活動時期の方が増えてくるというように、それぞれの成長の段階により適した恒常性のあり方が常に更新され続けていくと考えられることになります。

これは、種族全体の遺伝子レベルでの変化を表す進化についても同様で、

進化前の種族においても進化後の種族においても、恒常性は同じように維持され続けていくのですが、

外界の環境が変化していくのに対応して、生存により適した新たなバランスが見いだされていくことによって、新たな恒常性のあり方が獲得されていくことによって、進化が進んでいくと考えられることになります。

つまり、

成長と進化という概念は、必ずしも恒常性の原理と対立する概念ではなく、

むしろ、古い恒常性から新しい恒常性へと順次変化していくという恒常性のあり方自体の変化によって、生物における成長と進化という仕組み自体が成り立っていると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

成長や進化の前後では、生存に適した周りの状況や環境の条件が変わり、それに伴って生命の維持にとって最適なバランス、すなわち恒常性のあり方自体が変化していくと考えられることになるのですが、

そうした個体の成長種族の進化といった大きな変化を経ても、より本質的な恒常性のあり方は、同じように保たれ続けていくことになります。

そして、そういう意味では、

生物における恒常性の原理成長と進化の概念とは必ずしも互いに対立する概念ではなく、

むしろ、自らの種族の生命を維持していくために、環境の変化に適応して新たなバランスを見いだしていくという生物における柔軟で能動的な恒常性の機能に基づいて進化という現象自体が成り立っていると考えられることになります。

さらに言うならば、

生物のあらゆる生命活動を維持し、成長や進化といった概念の根底にもある恒常性の原理とは、生命の営み、生命活動そのものでもあるとも考えられることになるのです。

・・・

次回記事恒常性(ホメオスタシス)とは何か?生物の内部環境を一定の状態に維持する自発的で能動的な活動、生命とは何か?⑥

このシリーズの前回記事生物の恒常性と鉱物の恒常性の違いとは?フライパンと形状記憶合金、生命とは何か?④

前回記事:行動の習慣化に基づく人間の心の恒常性の柔軟で自発的な変化のバランス、人間の心における恒常性とは何か?②

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