ソフィストとは何か?①自然の探求から人間の魂の探究への過渡期に位置する思想

英語ではソフィストsophist)、
古代ギリシア語ではソピステースsophistes)とは、

主に紀元前5世紀後半アテナイを中心に活躍し、
市民へと広く知恵や教養を授けることを専門とした職業人思想家のことを指す概念です。

しかし、

ソフィストという言葉は、
似非哲学者詭弁家などを指す蔑称として使われることもあれば、

知恵や学識ある人々を指す意味でも使われることもある
多義的な概念であり、

その概念の適用範囲も、ソクラテスと対立する思想的立場にあったアテナイの一部の思想家や弁論家たちのみを指す場合から、

古代ギリシアからローマの時代において金銭を対価として市民への教育を行った
職業教師全般を指す概念としても用いられることもあるというように、
幅広い解釈の余地を持つ、はっきりとした定義を示しづらい概念でもあります。

そこで、

今回から数回のシリーズにわたって、
古代ギリシアの哲学史におけるソフィストとは
具体的にどのような人々のことを指す概念であり、

彼らの思想は、哲学史の流れの中においてどのように位置づけることができるのか?といったことについて詳しく考えていきたいと思います。

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古代ギリシア哲学のイオニアからアテナイへの伝播

古代ギリシア哲学は、イオニア地方のギリシア人都市ミレトスに生まれた
タレスから始まることになりますが、

その後、ピタゴラスの西遷などを通じて、
イタリア地方にも大きな哲学の学派が形成されていくことになります。

そして、

そのうちのイオニア学派の系譜をひく哲学者の一人であるアナクサゴラス
紀元前5世紀半ばに故郷のイオニア地方のクラゾメナイからギリシア本土のアテナイへと移り住んだことによって、この地に最先端の哲学思想がもたらされ、
そこからアテナイにおける哲学などの学術研究が大きく進んでいくことになります。

そしてさらに、

アナクサゴラスのアテナイ移住からわずか100年後
紀元前4世紀半ばアリストテレスの時代には、

アテナイこそが古代ギリシア哲学の集大成をなす
哲学研究の最大の中心地として君臨することになるのです。

ソフィストと呼ばれる思想家たちの活動も、
こうしたアナクサゴラスの移住に端を発するイオニアからアテナイへの哲学思想の伝播と、それに基づくアテナイにおける学術研究の進展の中で広がっていったと考えられることになります。

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自然の秩序の探求から人間の魂の探究への過渡期

そして、

以上のような哲学思想の地理的な伝播のあり方に対応して、
それぞれの学説における思想内容の傾向についても、

ソクラテス以前イオニアやイタリアにおける哲学思想と
ソクラテス以降アテナイの哲学という二つの大きな流れに分けて捉えることが可能となるのですが、

こうしたソクラテス以前と以降における哲学的探究の方向性の具体的な転換のあり方について記述すると以下のようになります。

イオニア学派やイタリア学派といった
ソクラテス以前の哲学においては、

万物の始原archeアルケー、元となるもの)とは何か?
という世界の始まりに対する問いに始まり、

宇宙全体の構成要素やその生成変化を生み出す力といった
自然の秩序やそれを司る根本的原理への探究が進んでいくことになります。

それに対して、

アテナイソクラテスに始まり、
プラトンアリストテレスへと続いていく
古代ギリシア哲学の集大成にあたるソクラテス以降の哲学においては、

哲学的探究の対象が、それまでの自然の秩序の探求から、
善美なるものとは何か?善く生きるとは何か?といった
人間の生倫理生き方の探求へと移り変わっていくことになります。

つまり、

ソクラテス以前の哲学とソクラテス以降の哲学においては、

自然の探求から人間の魂の探究へと
その探究の焦点が徐々に転換していったと考えられるということです。

・・・

以上のように、

イオニア学派を代表する最後の哲学者である
アナクサゴラスのアテナイへの移住と、

アテナイ出身最初の哲学者である
ソクラテスのその数十年後の出現が象徴するように、

大きな流れとしては、
アナクサゴラスソクラテスの間を境として、

自然の秩序における万物の始原の探求から、
人間の生と魂における善美なるものの探究へと
哲学的探求のあり方はその方向性を大きく転換していくことになります。

しかし、

哲学史の流れ自体は、アナクサゴラスからすぐに、
ソクラテス、プラトン、アリストテレスという古代ギリシア哲学の集大成をなす
アテナイの三人の哲学者たちへと直接つながっていくのではなく、

その間に、

ソフィストと呼ばれる一連の思想家弁論家たちが
自らの知恵思想論理の力を互いに競い合って
アテナイの社会を席巻する時代が訪れることになるのです。

・・・

このシリーズの次回記事:
ソフィストとは何か?②アテナイにおける民主制の進展とソフィスト思潮の隆盛

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