同質部分体(タ・ホモイオメレー)とは何か?スペルマタ(種子)からクレーマ(事物)へと至る三段階の秩序構造

同質部分体ta homoiomereタ・ホモイオメレー)とは、
アナクサゴラスの哲学思想の中に出てくる専門用語の一つですが、

厳密に言うと、その概念自体は、
アリストテレスによる学説体系の整備を経た後に見いだされる概念ということになります。

アナクサゴラス自身の著作は、原本自体としては残っておらず、
その思想は20程度に分かれた断片の形でしか後世には伝わっていないので、

こうした概念が直接アナクサゴラス自身の思想に由来するものであったかどうかを確かめることは難しいのですが、

いずれにせよ、

アナクサゴラスからアリストテレスへとつながる学説の変遷の中で形成されていったと考えられる同質部分体という概念は、

アナクサゴラスの哲学思想を理解する一つの手がかりとなる
ある種の階層構造中間に位置する概念として捉えられることになります。

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アリストテレスのアナクサゴラス解釈に基づく同質部分体という概念

アリストテレスによると、

アナクサゴラスの哲学思想において万物を形成する基本素材となる微粒子的な存在であるスペルマタspermata種子)は、

似通った性質を持った同種のスペルマタ種子)同士で
互いに結びついていくことになり、

このような同種のスペルマタ同士の結びつきによって形成される皮膚骨髄といったある種の同質の組織のような集合体が同質部分体タ・ホモイオメレー)と呼ばれることになります。

そして、

こうした同種のスペルマタの集合体としての同質部分体がさらに集まって
より複雑な複合体を形成していくことによって

世界に存在する人間やその他のあらゆる動植物、さらには、太陽や月、星々なども含めた宇宙に存在するあらゆる事物chremaクレーマ)が形成されていくと考えられることになるのです。

つまり、

アナクサゴラスの哲学における
同質部分体の概念とは、

スペルマタ種子)から現実におけるあらゆる事物が形成されるときに
両者の間に位置する中間概念のようなものとして捉えることができるということです。

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種子と同質部分体と事物の三段階の秩序構造

アナクサゴラスの宇宙観においては、

まず、原初の宇宙の姿として、
すべての要素が渾然一体となった状態があり、

そうした原初の混合状態から
それぞれの要素が不完全な形で互いに分かれ出でていくことによって
事物を形成する基本素材であるスペルマタ種子)が現れることになります。

そして、

詳しくはアナクサゴラスのスペルマタ(種子)と原子論における粒子の違い
で書いたように、

スペルマタ種子)は、万物を構成する基本素材でありながら、
それ自身も無限の要素を自らの内に含み持つ混合体でもあるとされるので、

それぞれのスペルマタの種類の区別は、要素の種類自体の区別ではなく、
スペルマタが自らの内に含み持つ要素同士の比率の違いによってもたらされることになります。

したがって、

同じ種類のスペルマタの集合体として形成されることになる同質部分体
それが同質と呼ばれるからといって、
全く同一の要素のみから成る均一な集合体として形成されているわけではなく、

あくまでも、同じ要素の比率が高いスペルマタの集合体として形成されていて、
その比率の高い要素の違いにおいて、他の同質部分体との区別もなされることになります。

例えば、

骨の同質部分体肉の同質部分体も共に、
骨の要素と肉の要素の両方を持ち合わせているのですが、

骨の同質部分体は骨の要素の比率が高いスペルマタから形成され、それと反対に、
肉の同質部分体は肉の要素の比率が高いスペルマタから形成されることによって
同質部分体同士の区別がなされていくというようにです。

そして、

似通った要素の比率を有する種子同士は、
こうした同質部分体の概念を媒介とすることによって
骨と肉のような互いに異なる性質を持った集合体を形成し、

そうした集合体が互いに合わさって、より複雑な複合体を形成することによって、
互いに異なる特徴を持った現実に存在するあらゆる事物の区別が形成されていくことになると考えられるのです。

・・・

以上のように、

同質部分体タ・ホモイオメレー)という概念は、

すべてが渾然一体となった原初の宇宙から分化したスペルマタ種子)から現実に存在するあらゆる事物クレーマ)が形成されていく際に、

そうしたスペルマタ種子)から事物クレーマ)への万物の形成のあり方を
媒介するある種の中間概念として捉えることができると考えられることになります。

そして、

アナクサゴラスの哲学思想においては、

こうした種子スペルマタ)から同質部分体、そして事物クレーマ)へと展開していく三段階の階層構造において

宇宙全体における秩序構造が形成されていくと
捉えられることになるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:自らの内に無限の部分を有する万能の種、アナクサゴラスのスペルマタ(種子)と原子論における粒子の違い②

このシリーズの次回記事:「あらゆるものの内にあらゆるものの部分が含まれている」アナクサゴラスの箴言と生命観と宇宙観

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