四体液説における熱冷乾湿の対応関係とホメオスタシス、四体液説と四元素①

四体液説の理論については、以前にも
中世における四元素説の受容と四体液説と錬金術」で少し取り上げましたが、

今回は、

こうした古代から中世にかけてのヨーロッパにおける
支配的な医学理論であった四体液説

前回取り上げた
古代ギリシア哲学における四元素説における熱冷乾湿という
四つの性質の対立構造の関係について考えていくなかで、

四体液説に基づいて健康が維持されたり病気が生じたりする原理や、
四体液のバランスと体内の恒常性ホメオスタシス)の関係などについても
考えていきたいと思います。

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四体液説と熱冷乾湿の四性質の対応関係

空気四種類の元素の混合と分離によって
自然界におけるすべての事物が成り立っているとする四元素説は、
紀元前5世紀の古代ギリシアの哲学者である
エンペドクレスによって唱えられることになりますが、

それに対して、

人体を流れる四種類の体液のバランスによって
人間の体内における生命活動が成り立ち、健康や病気が生じるとする四体液説は、
紀元前4世紀の古代ギリシアの医師にして「医学の父」と称される
ヒポクラテスによって唱えられることになります。

そして、下図に示したように、

四元素説における自然界を構成する四要素である
空気のそれぞれの要素は、

四体液説においては、人体を流れる四つの体液である
血液黄胆汁黒胆汁粘液という四要素に対応することになります。

四元素説における四元素および熱冷乾湿と四体液説における四要素である血液と黄胆汁と黒胆汁と粘液の対応関係

しかし、

四元素説と四体液説における四要素を
そのまま直接対応づけてしまうと、

例えば、

自然界においては透明な気体である空気の元素
人間の体内に入ると真っ赤な液体である血液へと変わるというように、

感覚的には納得しがたい現象が起きているような
説明になってしまうことになるので、

両者の思想は、
直接結びつくのではなく、

四元素説の背後にある
熱冷乾湿という四つの性質の対立構造を介することによって
互いに結びつけられていると考えられることになります。

詳しくは「四元素における熱冷乾湿の四項対立の図形的関係」で書きましたが、
四元素説は、特に、アリストテレスによる理論の緻密な体系化を経て以降、

空気が湿と熱、火が乾と熱、土が乾と冷、水が湿と冷というように、
それぞれの元素が基本性質を二つずつ有する存在として捉えられ、
対角線上に位置する元素同士は正反対の性質を有するという図式において
説明されることになります。

そして、

こうした四元素における熱冷乾湿の四性質の対立構造に対応して、
四体液説においても、

血液が湿と熱、黄胆汁が乾と熱、黒胆汁が乾と冷、粘液が湿と冷という
基本性質を有する体液として捉えられることになります。

四元素説においては、こうした熱冷乾湿の四性質を分有する
四元素の調和によって自然界における秩序が成り立っていると
捉えられることになりますが、

それと同様に、

四体液説においては、人間の体内におけるバランスも、
四体液の調和によって成り立っていると捉えられることになるのです。

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四体液の調和によるホメオスタシスとしての健康の維持

四元素説において熱冷乾湿という二組の性質が
元素を司る万物の基本性質として重視されているように、それ対応して、

四体液説においては、体温と体内における水分量
体内のバランスを司る体液の基本性質として重視されることになります。

人間は、その生命活動な活発な時期である青年期においては、健康的であるならば
通常、体温が高く活動的で、身体もみずみずしい状態が保たれることになりますが、

その反対に、生物としての生命活動を終えて死を迎えると、
身体は次第に冷たくなり、水分も失われていき、
最終的にはミイラのような冷えて乾燥した状態へと変化していくことになります。

このように、

適切な体温の高さと体内組織における水分の保持
人間の生命活動の根幹に関わる
生命の原動力となる重要な要素と考えられるので、

四体液説においては、身体の生命活動を司る基本性質である
体温体内水分量が病気と健康に関わる要素として重視され、

ひいては、こうした二つの要素におけるそれぞれの両極の組み合わせを分有する
四体液のバランスが維持されることによって、
身体の健康が維持されると考えられていたのです。

そして、

こうした四体液説における四体液のバランスという考え方は、

現代における身体の恒常性ホメオスタシス)の概念にも
つながる考え方であると捉えることもできます。

生物の体内環境において、外界から変化を受けても
内部環境を一定の状態に保ち続けようとする働きである

恒常性ホメオスタシス)という概念自体は、
近代も終わりに入った19世紀後半になってから提唱される概念ですが、

四体液説においても、こうした恒常性の概念と同様に、
人間の体内環境は、対立する性質を持った体液同士の力の拮抗関係
その勢力同士の自律的な均衡によって成り立っていて、

人体が本来的に持っている四体液のバランスを保つ力によって
健康が維持されていると捉えられることになります。

そして、

そうした四体液の自律的なバランスとしての恒常性
大きな乱れが生じることによって病気が生じると考えられることになるのですが、

病気からの回復も、四体液の適切なバランスの再構築によって
もたらされることになるので、

こうした四元素説に基づく医学治療においては、
体内における四体液の自律的なのバランスを取り戻すように働きかけることに主眼を置いて治療がなされるべきと考えられていくことになるのです。

・・・

以上のように、

四体液説における四つの体液は、
熱冷乾湿という四つの性質の対立構造を介することによって
四元素説における四つの元素と結びつけられることになるのですが、

そうした四体液説においては、

体温体内水分量という二つの要素が
身体の生命活動を司る基本性質として重視され、

そうした基本性質をそれぞれに分け持つ
四体液の自律的なバランスが維持されることによって
健康が保たれると考えられることになるのです。

ところで、

四体液説を構成する血液黄胆汁黒胆汁粘液という四つの体液には、
一見すると現代には馴染みのない名前のものも混じっていますが、

こうした四体液説における四つの体液のそれぞれは、
現代医学においては具体的にどのような体液の成分に対応していると
捉えることができるのでしょうか?

こういったことについては、また次回考えてみたいと思います。

・・・

このシリーズの関連記事:エンペドクレスの四元素説と陰陽五行説の違いとは?四元素と五行説①

このシリーズの次回記事:血液と黄胆汁と黒胆汁と粘液の医学的観点からの説明、四体液説と四元素②

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