172番か173番の元素が理論上存在しうる最後の元素とされる理由とは?①原子番号の増加に伴う原子核の不安定性による説明

物質を構成する基本単位としての元素
すなわち、原子の種類としての化学元素は、

原子番号1番水素H)から、2番ヘリウム(He)、3番リチウム(Li)、
4番ベリリウム(Be)、5番ホウ素(B)、6番炭素(C)と続き、

原子番号118番ウンウンオクチウムUuo)までの
全部で118種類の元素が現在までに発見されています。

その一方で、

いまだ未発見であるが、理論上は存在することが可能と考えられている元素も含めて
全部で172種類173種類の元素が存在しうるとする考え方もあるのですが、

このことは、逆に言うと、

172番173番の元素理論上存在しうる最後の元素であり、
それ以上原子番号が大きい元素は存在しないということを意味することにもなります。

このように、元素の数は多くても原子番号173番の元素が最後の元素とされ、
174番以降の元素が理論上においても存在しえないと考えられるのには
いったいどのような理由があるのでしょうか?

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原子番号の意味と新たな元素の合成の仕組み

そもそも、

原子番号とは、原子核の内に含まれる陽子の個数を表した番号であり、
電荷を持たない通常状態の原子では、電子の数は陽子と同数存在することになるので、

元素の原子番号が増えていくにしたがって
その元素に含まれる陽子と電子の数もどんどん増えていき、
原子量、すなわち、原子の質量もどんどん大きく重くなっていくことになります。

そして、

原子番号92番ウランU)より重い超ウラン元素
自然界にはほとんど存在しないので、

92番以降の元素は、
粒子加速器などを使って原子核同士を高速で衝突させることにより
人工的に合成することによってその存在を実証することになります。

つまり、

どこまで原子番号の大きい元素が存在しうるのか?
という問いは、

どこまで多数の陽子と電子が一まとまりになった重い元素
人工的に合成することが可能なのか?

という問いに置き換えて捉えることができるのです。

原子番号の増加に伴う原子核の不安定性の増大

そして、

一定の数の陽子中性子電子がまとまった
一つの原子として存在するためには、

以下のような
原子の内部における各粒子間の結合の安定性が重要となります。

原子核を構成する陽子中性子
核力と呼ばれる引力で互いに結びつけられているのですが、

その一方で、

原子を構成している陽子はプラスの電荷を
電子はマイナスの電荷を帯びていることによって互いに引きつけ合い
一つの原子としてまとまることが可能となっています。

そして、

プラスの電荷を持つ粒子とマイナスの電荷を持つ粒子が
互いに引き合うのに対して、

同じ電荷であるプラスの電荷を持つ粒子同士、すなわち、
陽子同士には、互いに反発する力が働くことになります。

したがって、

原子番号が増え、原子の内に含まれる
陽子の数が増えていくのにしたがって、

原子核の内部で互いに反発し合い分裂しようとする力が強く働くようになっていき、
原子の内部における不安定性が増大していくことになるのです。

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重質量原子における放射性崩壊と元素の寿命の限界

そして、

原子番号の大きい超ウラン元素などの重質量原子は、
原子核の不安定性が高まることによって

一定の確率放射性崩壊を起こし、
より安定性の高い原子番号の小さい元素へと元素転換していくことになります。

原子核の内に含まれる陽子の個数が多い
原子番号が大きい重質量原子になればなるほど

原子核における放射性崩壊の確率は
急速に高まっていくことになり、

元素がその原子番号数を保っていられる期間、すなわち、
元素の寿命自体も急速に短くなっていくことになるのです。

そして、

理論上存在しうる原子番号の限界とされる
172番や173番の元素のあたりになってくると、

原子核の不安定性が極端に高くなることによって
放射性崩壊の確率も極限まで高まり、

元素の寿命限りなくゼロへと近づいていくことになります。

このような状態では、
原子核同士の衝突によって新たな重質量原子を合成しようとしても、
その元素は、生成した瞬間に崩壊してバラバラに分解してしまうことになるので、

それ以上大きい原子番号の元素を生成することは
事実上不可能ということになってしまうのです。

・・・

以上のように、

より大きい原子番号のより重質量の元素を合成していくことは
どこまでも無限に可能というわけではなく、

物質を構成する基本単位である原子の種類としての
元素の数はせいぜい百数十種類という有限の数に限られることになる理由は、

ひとまずは、原子番号の増加に伴う原子核の不安定性の増大による
元素の寿命の短命化によって説明することができると考えられます。

しかし、

なぜその数の限界がぴったり173番の元素と考えられるのか?

173番目の元素とそれ以降に生成しようとする元素とでは
どのような点が決定的に異なるのか?

といったことについては
上記の説明では必ずしも説明し尽くされていないので、
こうしたことについて、より厳密な形で説明するためには、

さらに、

新たな重質量原子の生成における電子結合エネルギー
電子と陽電子の対生成に必要なエネルギーとの関係といった観点からも
この問題について考えていくことが必要となります。

・・・

このシリーズの次回記事:172番か173番の元素が理論上存在しうる最後の元素とされる理由とは?②電子と陽電子の対生成による説明

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