エンペドクレスの多元論からデモクリトスの原子論への展開、四元素説と原子論①

前回考えたように、
エンペドクレスの四元素の概念は、

本来、ギリシア神話の神々の権能にも対応する
神秘的で宗教的ですらある概念でもあるのですが、

その一方で、

エンペドクレスにおける多元論の思想は、

レウキッポスデモクリトスといった
原子論者たちの思想とも結びついていき、

その哲学体系の発展にも大きく寄与していくことになります。

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原子論が先か?四元素が先か?

古代ギリシア哲学における原子論atomismアトミズム)とは、

物質を構成する最小単位である
複数の種類の原子が組み合わさることによって
世界に存在するすべての存在が形づくられているとする哲学理論なので、

その前提には、エンペドクレスの四元素説と同様に
万物の始原に関する多元論の思想があると考えられることになります。

それでは、

こうしたエンペドクレスの四元素における多元論の思想と
レウキッポスやデモクリトスらの原子論における多元論の思想は、
どちらが先に考え出された理論ということになるのでしょうか?

原子論の創始者でありデモクリトスの師であるともされている
古代ギリシアの哲学者レウキッポスの生年は紀元前470年頃とされていて、
これに対して、エンペドクレスの生年は紀元前492年頃とされているので、

おおよその推定では、
レウキッポスエンペドクレスよりも20年ほど年少だったと
考えられることになります。

ちなみに、弟子であるデモクリトスの生年は紀元前460年頃とされているので、
こちらは、エンペドクレスよりも30年ほど年少ということになるのですが、

つまり、

それぞれの哲学理論の創始者の年齢関係だけから考えても、

原子論の創始者であるレウキッポスとその弟子のデモクリトスは、
年代において先行する哲学者であるエンペドクレスの四元素説について
十分に見聞きし、それを参考にしたうえで
自らの哲学理論を打ち立てていったと考えられることになるのです。

また、

原子論の創始者とされるレウキッポス自身の著作は、
少なくとも後世まで影響をもった文献としては、
まったくと言っていいほど残されていないように、

原子論が単なる着想や洞察以上の
整合性をもった哲学理論として体系化されたのは
デモクリトスの段階になってからと考えられるのですが、

デモクリトスの原子論の哲学体系においては、

例えば、

人間の魂を形成する原子
四元素の内の火に属する原子であるとされていたり、

宇宙論において、
それまで離散していた原子が一つの領域に向かって集合していく
渦動運動によって宇宙全体が形成されるとした点などに

エンペドクレスに独特の哲学思想の影響を
読み取ることができます。

これに対して、

エンペドクレスの四元素理論の方には、
原子論の思想からの影響はほとんど見られないので、

こうした思想の影響関係という観点から見ても、
エンペドクレスの四元素説の方が先にあり

古代ギリシアにおける原子論は、
エンペドクレスの哲学思想の影響を強く受けつつ形づくられていった
哲学理論であると考えられることになるのです。

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四元素説と原子論における世界観の違い

それでは、

共に、万物の始原についての多元論の哲学理論にあたる
四元素説原子論では、それぞれ互いにどのような点が異なるのか?

ということですが、

大枠としては、以下のような点に
両者の理論の相違点があると考えられることになります。

まず、

原子論においては、

万物を形成する元素としての原子atomaアトマ)の概念は、
世界に存在するすべての事物を形づくる究極の構成単位であり、
それは純然たる物質的存在ということになります。

そして、

宇宙全体も、人間の魂ですら、
そうした物質的存在としての原子から構成されることになるので、

原子論に従うと、

物質的存在としての無数の原子による偶発的で無目的な運動に基づく
機械論的な世界観が形成されることになります。

それに対して、

エンペドクレスの四元素説では、
元素のそれぞれは、物質を構成する基本単位となっているだけでなく、

自然界において命の恵みや天変地異などの大きな変動をもたらす
力の概念とも結びつき、それはギリシア神話の神々の権能とも関連づけられる
神秘的で宗教的な概念としても捉えられることになります。

そして、

宇宙全体も元素自体の神的な力に基づいて
収束拡散という周期的な渦動運動自律的に繰り返していくことになり、

エンペドクレスの四元素説に従うと、

神的な力を有する四元素による自律的な運動に基づく
目的論的な世界観が形成されることになるのです。

・・・

以上のように、

エンペドクレスの四元素説からデモクリトスの原子論への
多元論の展開においては、

それぞれの理論における元素の位置づけ
それに基づく世界観の形成
大きな相違点があると考えられるのですが、

その中でも、両者の理論における最も大きな違いは
元素の種類数の違いに求められることになります。

・・・

このシリーズの前回記事:エンペドクレスの四元素とギリシア神話の神々との関係とは?エンペドクレスの四元素とは何か?③

このシリーズの次回記事:四元素説と原子論における元素の種類数の違いとは?四元素説と原子論②

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