エトルリア神話を介したギリシア神話のローマへの継承、ローマ人とエトルリア人の関係④

前回は、

エトルリアからローマへと受け継がれた
ファスケスの慣習からファシズムの語源、そして、
「三本の矢」の教えの由来へと少し話が広がってしまいましたが、

今回は、話の流れを元に戻して、
再び、ローマ人とエトルリア人の関係について書いていきたいと思います。

前々回書いたように、

エトルリア人からローマ人への文化的要素の継承は、
土木建築におけるアーチ構造の技術や、コロセウムにおける剣闘士の競技、
さには、戦争に勝利した後の凱旋式の様式など、多岐にわたりますが、

エトルリアのローマへの文化的影響は、
こうした建築技術や競技文化、儀礼や儀式の様式といった
目に見える文化だけにとどまらず、

神話占術といった
目に見えない精神文化にまで深く及んでいくことになります。

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『アエネイス』とギリシア神話とエトルリア人

『オデュッセイア』から『アエネイス』へ続くギリシアとローマの物語、古代ローマ建国史①でも書いたように、

ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』においては、

ギリシアの英雄オデュッセウスによって祖国を滅ぼされた
トロイアの英雄アエネアスが苦難と放浪の旅の末に
イタリア半島西部のラティウムの海岸へと流れ着き、

この地を治めていたラテン人の王ラティヌスの娘である
王女ラヴィニアと結ばれることで

ローマ人という新たな民族が生まれる礎が築かれるという
ローマ人の民族としての出自がギリシア神話からつながる物語として
描かれています。

そして、

このウェルギリウスの『アエネイス』は、

古代ギリシアの吟遊詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』から
強い影響を受けて書かれた作品であり、

まるで、ホメロスの『オデュッセイア』から分かれ出で、
その神話の続編を書きつなげていくかのように
ローマ建国へと続く一連の物語が紡ぎ出されていくことになるのですが、

こうしたギリシアからローマへとつながる
ギリシア神話を起源とする一連の物語は、より正確に言うならば、

ギリシア人からローマ人へと直接継承されたというよりは、
エトルリア人を介して継承されたということになるのです。

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英雄アエネアス伝説とエトルリア神話

ローマ人が、ギリシア人から直接ギリシア神話の物語を受け継いだのではなく、
エトルリア神話、すなわちエトルリア人の影響を色濃く受けたギリシア神話を
受け継いだと考えられる理由としては、

まず、

ローマ人の民族としての出自を描いた叙事詩である
アエネイス』の主人公である英雄アエネアス

エトルリア人の起源とほぼ一致する地域に出自を持つ人物である
ことが挙げられます。

英雄アエネアスの祖国とされる
古代都市トロイアは、

エトルリア人の最も有力な発祥地とされている
リュディア地方のちょうど西隣に位置していて、

エトルリア人は、自らの民族の発祥地に隣接する地域に出自を持つ
ギリシア神話におけるトロイアの英雄アエネアス

エトルリア人の民族としての出自をも重ねて託す形で
英雄アエネアス伝説の物語を自らの民族の神話として
語り継いでいったと考えられるのです。

また、

アエネアスは、その放浪の旅の途中で
カルタゴの女王ディードーのもとに身を寄せ、
この地で歓待を受けることになりますが、

エトルリア人は、東地中海の海上貿易ルートの安定を図り、
コルシカ島といった地中海の島々へと勢力範囲を広げていくために、

カルタゴと同盟を結び、
長い間友好関係を築いてきた民族でもあるので、

こうした点からも、

英雄アエネアス伝説エトルリア人との関係の深さを
うかがい知ることもできるように思います。

・・・

以上のように、

ローマの詩人ウェルギリウス
ローマ人の民族としての出自を明らかにするために書いた叙事詩である
アエネイス』において描かれているトロイアの英雄アエネアスの伝説

もともとは、エトルリア人のエトルリア神話に由来すると考えられ、

ギリシア神話は、エトルリア人を介することによって
ローマへと流れ込んでいったと考えられることになるのです。

そして、

ローマ人が自らの民族と国家の出自を描き出す
代表的なローマの建国神話建国物語としては、

ウェルギリウスの『アエネイス』に並んで、
リウィウスの『ローマ建国史』が挙げられることになるのですが、

このリウィウスの『ローマ建国史』においても、
エトルリア人とローマとの深いつながりを見いだすことがでます。

・・・

このシリーズの前回記事:ファシズムの語源であるファスケスと「三本の矢」の教えとの関係とは?、ローマ人とエトルリア人の関係③

このシリーズの次回記事:エトルリアとロムルスとレムスの鳥占いと卜占官、ローマ人とエトルリア人の関係⑤

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