図解で見るアルファベットとアブジャドとアブギダの音素文字の三分類のまとめ、音素文字の細分化⑥

前回までの5回にわたる
音素文字とアルファベットのシリーズにおいて、

アルファベットの語源アルファベットの歴史
さらに、アブジャドアブギダと呼ばれる
狭義におけるアルファベットとは別個の音素文字の体系における
文字表記システムのあり方について考えてきました。

そこで、今回は、
このシリーズのまとめとして、

いままで書いてきた音素文字に属する文字体系の区分について
図解しながらまとめ直していき、

音素文字とアルファベット、アブジャド、アブギダといった
文字体系の区分とそれぞれの概念の関係性、そして、
それぞれの文字体系に含まれる具体的な文字の種類について
改めて整理してみたいと思います。

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音素文字の三分類と音素文字の定義

音素文字に含まれる
アルファベットアブジャドアブギダ
という三つの文字体系について、

図解する形でそれぞれの区分定義、それぞれに分類される文字の種類
について示すと、下図のようになります。

音素文字とアルファベット、アブジャド、アブギダの関係

これから、上図に記した文字体系の一つ一つについて
改めて簡単に説明を加えていきながら、
音素文字の分類についてまとめていきたいと思います。

まずは、

この図の一番左に位置する
三つの文字体系の全体を包括する文字概念である
音素文字phonemic script)の定義についてですが、

音素文字を一言で定義すると、それは、
一つ一つの文字が一つの音素を表す文字

ということになります。

そして、

音素phonemeフォニム)とは、言語における音声の最小単位、すなわち、
母音子音のことを指す概念なので、

つまり、

個々の文字が一つの子音または母音に対応する文字が
音素文字であるということです。

そして、

こうした音素文字のことを、
広い意味ではアルファベットとも呼ぶことになるのですが、

こうした音素文字ないし広義におけるアルファベットの概念は、
さらに、以下で述べる三つの文字体系へと細分化していくことになるのです。

狭義におけるアルファベットの定義と分類される具体的な文字

そして、

音素文字に分類される文字体系の筆頭として挙げられるのが
アルファベットalphabet)ということになるのですが、

狭義におけるアルファベットの定義は、

単に子音や母音を表す文字というだけではなく、
すべての子音と母音を示す文字がその体系の内に含まれている文字体系という
より限定された意味で用いられることになります。

つまり、

個々の文字が一つ一つの子音と母音を表し、
子音を表す文字と、母音を表す文字両方を持つ文字体系が
狭義におけるアルファベットであるということです。

そして、

こうした狭義におけるアルファベットには、

世界初の完全なアルファベット体系であるギリシア文字や、
世界で最も広く使われている文字であるラテン文字ローマ字)、

さらに、ロシアのキリル文字や、古代のトルコ系遊牧民族の突厥文字
ウイグル族のウイグル文字などが分類されることになります。

アブジャドの定義と分類される具体的な文字

次に、

音素文字に分類されるもう一つの文字体系である
アブジャドabjad)についてですが、

アルファベットとアブジャドの違いについては、詳しくは、
アルファベットとアブジャドフェニキア文字の表記システムの違い
で書きましたが、

アブジャドの定義は、一言で言うと、
個々の文字が子音のみを表す文字体系ということになります。

つまり、

狭義におけるアルファベットにおいては、
子音文字と母音文字の両方が揃っているのに対して、

アブジャドにおいては、
子音文字だけしか存在せず、母音が抜かれた形で文字表記が行われる
ということになるのです。

そして、

こうしたアブジャドという文字体系には、

完成されたアルファベットであるギリシア文字の原型ともなった
フェニキア文字や、古代西アジアの隊商貿易を担っていたアラム人のアラム文字

さらに、アラビア文字ヘブライ文字
中央アジアの遊牧民族のソグド文字などが分類されることになります。

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アブギダの定義と分類される具体的な文字

次に、

音素文字に分類される残り一つの文字体系である
アブギダabugida)についてですが、

アブギダの文字表記システムは少し複雑で分かりにくいので、本編では
アブギダ梵字の文字表記システムと随伴母音と付加記号の仕組み
アブギダは音素文字か音節文字か?ピアノの楽譜の演奏記号との比較
の二回にわたって詳しく考察しましたが、

アブギダの定義について要約すると、それは、

子音文字と単独の母音文字によって構成され、
子音文字付加記号によって子音の後に続く母音を表すことができる文字体系

ということになります。

つまり、

アブギダにおいては、子音文字を一つ書くと
その子音に特定の母音随半母音が自動的に伴うものとして読まれ、

子音に別の随伴母音を伴わせたい場合は、
その子音文字に付加記号を書き加えることによってそのことを示す
というように文字の表記が進んでいくことになるのです。

そして、

こうしたアブギダという文字体系には、

古代インドでサンスクリット語を記述した
梵字(ぼんじ、悉曇文字、シッダマートリカー文字)や、

インドの各地で使われている
デーヴァナーガリー文字グランタ文字タミル文字

さらに、カンボジアのクメール文字や、
チベット民族のチベット文字などが分類されることになります。

・・・

以上のように、

音素文字(広義におけるアルファベット)という文字分類は、

狭義におけるアルファベットアブジャドアブギダという
三つの文字体系へとさらに細分化していくことになるのですが、

こうした互いに微妙に異なる文字表記のシステムに、さらに、
それぞれの民族に特有の語彙文法筆記法などの
文化的要素が加わっていくことによって、

上記の図に記されているような世界各地に存在する
多様な音素文字が形づくられていくことになったと考えられるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:アブギダは音素文字か音節文字か?ピアノの楽譜の演奏記号との比較、音素文字の細分化⑤

このシリーズの次回記事:表意文字と表音文字に含まれる七つの文字体系の分類の総まとめ

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