アブギダは音素文字か音節文字か?ピアノの楽譜の演奏記号との比較、音素文字の細分化⑤

アブギダは、音素音節文字alpha-syllabary
とも呼ばれるように、

音素文字と音節文字の中間に位置すると考えることも
可能な文字体系ではあるのですが、

そうした中間的で曖昧な区分を認めずに、
どちらか一方の分類へとはっきりと割り振ろうとするとき、

アブギダは、本質的には
音節文字と音素文字のどちらの文字体系の分類に属する
と言えることになるのでしょうか?

今回は、

ピアノの楽譜における変化記号演奏記号との比較を通じて、
そうしたアブギダと呼ばれる文字体系の分類問題について
考えてみたいと思います。

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音素文字と音節文字の両方の性質を併せ持つ文字システム

前回書いたように、

アブギダとは、子音文字単独の母音文字とで構成され、
子音文字と付加記号によって子音の後に続く母音を表すことができる
文字体系のことを示す概念ですが、

そもそも、音素文字の定義とは、
一つ一つの文字が言語における音声の最小単位である
母音や子音といった音素に対応する文字ということになるので、

文字体系の内に子音文字母音文字という区分がある時点で、
それは音節文字ではなく、音素文字に属する文字体系
とみなすことができると考えられます。

つまり、

アブギダにおいて、音素を表す
子音文字や母音文字が独立して存在するということは、それは、
音素文字の性質を持った文字体系と考えられるということです。

しかし、その一方で、

アブギダでは、子音文字と付加記号によって
子音の後に続く随伴母音の内容も同時に表現されていて、
こうした子音文字と付加記号が一つのセットになって
一文字一文字の形を形成していると見ることもできるので、

それは、実質的には、
一文字が子音と母音のセットに対応している
音節文字に属する文字体系とみなすこともできることになります。

そういう意味においては、アブギダは、
音節文字の性質を持った文字体系でもある
と考えられるということです。

以上のように、アブギダは、

音素文字と音声文字の両方の性質を併せ持った文字体系である
とも捉えることができることになるのです。

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アブギダの付加記号とピアノの楽譜の変化記号や演奏記号の比較

しかし、それでもさらに、

こうしたアブギダと呼ばれる文字体系は、
本質的には、音素文字のと音節文字どちらにより近い文字体系であるのか?
という問いを立てるとすると、

この問いに適切に答えるためには、アブギダにおける
随伴母音付加記号の文字体系内における位置づけについて
もう一度深く考えてみることが必要となります。

そして、

こうしたアブギダにおける付加記号の位置づけについて、
西洋音楽の楽譜の記譜法における変化記号や演奏記号の位置付けとの比較
を通じて考えてみると、それは以下のようになります。

例えば、

ピアノの楽譜において、

♯(シャープ)や♭(フラット)といった変化記号を付けずに書き表される
音符の音名、いうなれば、音の文字ともいえる音階名は、

ファという全七音、七つの音の文字
構成されることになります。

そして、

そこに、「」(シャープ)や「」(フラット)、「」(ナチュラル)さらには
」(スタッカート)や「テヌートフェルマータスラーといった

様々な変化記号演奏記号などの付加的な記号が書き加えられることによって
より限定された明確な音楽表現が示されることになります。

変化記号の付け方によっては、同じ「」という音階を
シ♯」や「レ♭♭」、「ド♮」というように
複数の異なる音名と変化記号のセットで記述することも可能ですが、

これらは、あくまで、音名に変化記号が付いたことによって示された
派生的な表現に過ぎないので、

こうした場合でも、音の文字である音名自体が
ファという主要な七音、
七つの幹音によって構成されていることには変わりはない
ということになるのです。

そして、

こうしたピアノの楽譜における
音名変化記号や演奏記号の関係と同様に、

アブギダにおいても、
文字を構成する主要な要素は、あくまで、
子音文字単独の母音文字であって、

そこに付加的な記号が書き加えられることによって
より限定された言語表現が示されていると考えられることになります。

つまり、

アブギダにおいて記されている
一文字一文字が直接示しているのは、あくまで、
一つの子音や母音であり、一つの音素であって、

そこに明示的な付加記号が加わることによって新たに随伴母音が設定されたり、
付加記号がない時に自動的に添加される随伴母音があるからといって、

そうした表現は、根幹となる子音文字に書き添えられた
付加的で派生的な表現に過ぎないということであり、

こうした付加記号によって
一見すると音節文字的な表現が形成されるからといって、

アブギダが、子音文字単独の母音文字から構成される
本質的には音素文字に属する文字体系であることに一切変わりはない
ということになるのです。

・・・

以上のように、

アブギダは、

子音文字と単独の母音文字から構成される
音素文字に属する文字体系でありながら、

子音文字と付加記号によって子音の後に続く
随伴母音が一緒に表されてしまうことから、
音節文字の性質も併せ持った文字体系であると捉えることもできるのですが、

こうした付加記号による随伴母音の表現は、
あくまで、文字体系内部の付加的で派生的な表現に過ぎないので、

アブギダという文字表記システム自体は、
本質的には音素文字に属する文字体系であるということになります。

つまり、

ピアノの楽譜における変化記号演奏記号
音符の音名、すなわち、音の文字自体とは別個の存在であるように、

アブギダにおいて見られる随伴母音の付加記号も、
それ自体は文字ではなく音素文字である子音文字の指示内容を
より具体的に限定する補助的な記号として捉えるのが適当である
と考えられるということです。

・・・

このシリーズの前回記事:アブギダ(梵字)の文字表記システムと随伴母音と付加記号の仕組み、音素文字の細分化④

このシリーズの次回記事:図解で見るアルファベットとアブジャドとアブギダの音素文字の三分類のまとめ、音素文字の細分化⑥

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