表意文字と表語文字の違いとは?絵文字(ピクトグラム)と象形文字(ヒエログリフ)の差異

一般的な分類では、文字の種類は、

漢字や象形文字などの表意文字
ローマ字やギリシア文字などのアルファベットに代表される表音文字
二つの系統に大別されるすることが多いですが、

言語学などのより専門的な分野では、

漢字や象形文字は、表意文字ではなく、
表語文字に分類されることもあります。

これらの表意文字表語文字という二つの概念は
それぞれ具体的にどのような意味の違いがあり、
互いにどのような関係にある概念なのでしょうか?

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言語の枠組みを飛び越える表意文字

表意文字ideogram)とは、前々回詳しく書いたように、
ギリシア語のidea観念概念)とgram書かれたもの)が
結合してできた言葉ですが、

狭義における表意文字とは、

音声を持った単語とは直接結びつかずに、
純粋に一つの観念一つのイメージを表す文字ということになり、

こうした狭義における表意文字には、

ピクトグラムpictogram絵文字)や
アラビア数字などが分類されることになります。

例えば、

アラビア数字の「」は、

英語では”one“(ワン)、ドイツ語では”eins“(アインス)、
フランス語では”un“(アン)、日本語では「」(いち

というように、

それぞれの言語体系によって
異なる単語に対応することになりますが、

そのすべてにおいて、
1」という文字が表す観念・イメージ
ただ一つに定まることになります。

また、それと同様に、

ピクトグラム絵文字)においても、

例えば、標識などで、

タバコの絵に斜線が引いてあるようなピクトグラムがあれば、
そのピクトグラムからは、日本人でもドイツ人でも同様に、

「ここで煙草を吸ってはいけない」、「禁煙」といった
共通のイメージを受け取ることになりますし、

箱や大きな缶にドクロマークのシールが張りつけられていれば、
そのピクトグラムからは、どの国の人であろうと、

危険物」、「毒物」、「とにかく開けてはいけない何か危ない物が入っている」
といったイメージを受け取ることになります。

もちろん、一定程度の文化的共通点があることが
特定の表意文字から共通のイメージを引き出すことができるための
前提条件として必要にはなるわけですが、

ちょうど、言葉が分からない異国の地に行ったときに、言語ではなく
ジェスチャー表情などによって何とか意思の疎通を図ろうとするのと
同じように、

イメージや観念と直接結びついている表意文字からは、言語間の障壁を乗り越えて、
その文字が示すイメージを直接読み取ることが可能ということになるのです。

つまり、

アラビア数字やピクトグラムといった
狭義における表意文字に分類される文字は、

個別の言語の枠組みを飛び越えて、
共通のイメージ共通の観念を指し示すことができる文字
として捉えることができるということです。

特定の言語の一つの言葉と直接結びつく表語文字

一方、

表語文字logogram)の方は、
ギリシア語のlogosロゴス言葉論理)とgram書かれたもの)が
結合してできた言葉であり、

特定の言語体系の内の一つの言葉と直接結びつく文字
ということになります。

そして、

表語文字が表す言葉というのは、通常の意味における単語を表す場合と、
単語や文節を構成する言語の最小単位である形態素を表す場合とがあり、

この言語学における形態素という概念が具体的にどのような概念であるのか?
ということについては、次回改めて詳しく考えてみることとしますが、

いずれにせよ、

表語文字では、文字は、狭義における表意文字のような
漠然としたイメージを表すのではなく、

特定の言語における単語や形態素といった
一つの言葉に明確に対応することになるのです。

そうすると、例えば、

現代の日本においても使われている漢字などの場合は、
一見しただけでは具体的なイメージとは必ずしも結びつかない
その複雑に抽象化された多様な文字の形
中国語や日本語といった特定の言語との緻密な対応関係からみても明らかな通り、

漢字は、狭義における表意文字ではなく、
表語文字に分類されることになりますが、

より具体的なイメージと直接結びつきやすい形状を保っている
象形文字などの場合は、

それは、狭義における表意文字表語文字
どちらに分類されることになるのでしょうか?

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象形文字はピクトグラム(絵文字)か?それとも表語文字か?

エジプトのヒエログリフhieroglyph神聖文字)のような
象形文字の場合は、

太陽や山、フクロウやハゲワシ、フラミンゴ、コブラといった
自然界の事物が、そのまま絵にしたような形で文字として描かれていて、

現代人でも、その象形文字の形を見ただけで
古代エジプト語が分からなくても
その文字自体が何をイメージしているのかということは
すぐに分かってしまうことも多いので、

ヒエログリフは、文字の形状としては、狭義における表意文字に分類される
ピクトグラム絵文字)と非常に近い形をしているということになります。

しかし、実際は、

ヒエログリフの一字一字は、
絵文字のような漠然としたイメージを表しているわけではなく、
古代エジプト語における一つ一つの言葉に明確に対応する形で、
文法的規則に従って論理的に配置されているので、

そうした文字の機能面においては、ヒエログリフは、
漢字に代表される表語文字と同様の形式を持っていることになります。

さらに、

エジプトのヒエログリフにおいても、
漢字における仮借かしゃの用法と同様に、

象形文字が示している単語の音のみを借りて転用することによって
表音文字として使用するような高度に抽象化された用法もあるので、

ヒエログリフをピクトグラム絵文字)と同様の
漠然としたイメージを直接的に示すだけの原始的な文字として扱うのは
やはり、不適切ということになり、

したがって、

エジプトのヒエログリフのような象形文字
表語文字に分類されることになるのです。

・・・

広義・狭義における表意文字と表語文字との関係

以上のように、

アラビア数字や絵文字のような
狭義における表意文字は、

特定の言語における単語とは直接結びつかずに、
個別の言語の枠組みを飛び越えた共通のイメージを表す文字
であるのに対して、

漢字やヒエログリフのような
表語文字は、

特定の言語体系の内の一つの言葉と直接結びつく
複雑で論理的な文法体系の内に位置づけられる文字
ということになります。

そして、

こうした狭義における表意文字と表語文字の全体が、
広義における表意文字として捉えられることになるのですが、

以上のような広義と狭義における表意文字表語文字との関係をまとめると
下記の図のようになります。

広義・狭義における表意文字と表語文字との関係

このように、

現代でも使用されている漢字だけではなく、

古代文字であるエジプトヒエログリフや、
世界最古の文明であるメソポタミア文明の担い手である
シュメール人が開発した楔形文字
古代インドやパキスタンで栄えたインダス文明インダス文字
漢字と同じ区分に位置づけられることになり、

世界四大文明とされる
エジプト文明メソポタミア文明インダス文明黄河文明という
世界の四つの主要な古代文明の文字は、

そのすべてが表語文字に分類されることになります。

そして、

これらの古代文明が創り上げた文字は、
決して、漠然としたイメージを伝えるだけの
原始的な文字というわけではなく、

表音文字へも転用可能な複雑で論理的な文法規則を持った
表語文字として存在していたと考えられるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:表音的な表意文字と表意的な表音文字とは?仮借と借字とアルファとオメガ

このシリーズの次回記事:

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