古代ギリシアの暗黒時代とは何か?③ヨーロッパ古典時代の幕開けとホメロスの叙事詩

前々回前回
二回にわたって考えてきたように、

海の民の侵攻と北方からのドーリア人の侵入によって
古代ギリシアのミケーネ文明は滅亡し、

こうした文明の破壊と文字文化の消失によってもたらされた
古代ギリシアの暗黒時代は、
その後500年間にわたって続くことになります。

そして、

その長い暗黒時代の後には、
ついに新たなる文明の夜明けが訪れることになるのですが、

そうした文明の夜明けは、ギリシア文字の発明と、
その文字によって記された古代ギリシア文学の誕生によって
もたらされることになります。

文字文化の消失によって始まった暗黒時代は、
新たな文字文化の誕生によってその終わりを迎えるということです。

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フェニキア文字からギリシア文字へ、新たな文字文化の前提条件

紀元前1200年頃にミケーネ文明やヒッタイト帝国といった
地中海における古代文明の大部分が滅亡し、姿を消していくと、

そのすき間を埋めるかのように、
東地中海東岸の現在のレバノンにあたる地域を本拠地としていた
海洋商業民族であるフェニキア人Phoenicians)が

地中海一帯の貿易活動によって
その勢力を大きく拡大していくようになります。

地中海世界の各地を旅していく中で、
商業活動を円滑に進めるために
文字による記録を必要としたフェニキア人たちは、

紀元前1050年頃になると、
フェニキア文字Phoenician alphabet)と呼ばれる

独自のアルファベットalphabetを開発します。

アルファベットとは、子音母音といった音素を表す文字で構成される表音文字のことを指しますが、ちなみに、フェニキア文字の場合は、子音を表現する文字のみから構成されていて、母音については文脈によって補われることになっていました。

そして、

紀元前9世紀頃に、このフェニキア文字を元にして、
ギリシア語圏でも、自分たちの言葉をアルファベットで表記する
ギリシア文字Greek alphabet)が新たに開発されることにより、

古代ギリシア世界に新たな文字文化が形成される
前提条件が整うことになるのです。

ホメロスの叙事詩と新たなる文明の夜明け

紀元前8世紀になると、
吟遊詩人であったホメロスHomeros)によって

イリアス』(Ilias)と『オデュッセイア』(Odysseia)という
古代ギリシア文学の二大叙事詩が語り出されることになります。

吟遊詩人とは、物語を
歌によって語り伝える人のことを指す概念なので、

ホメロスはその叙事詩を
韻律に乗せた詞によって語り出し、

その物語自体も、しばらくは口承によって
古代ギリシア世界の内で語り伝えられていったと考えられます。

そして、

それが一つの定まった形式を持った文字文学として
古代ギリシア世界に完全に定着しきるまでには、
さらに200年ほどの時間を要することになるのですが、

いずれにせよ、

古代ギリシア最古の叙事詩にして最高傑作とされる
ホメロスの二大叙事詩が、その後、ギリシア文字によって書き記され、
社会の内に定着していくことによって、

古代ギリシア世界における新たな文字文化
古典文学、そして、新たなる文明の夜明けが訪れることとなるのです。

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盲目の詩人によって開かれた新たなる時代の目

ちなみに、

ホメロスは、伝承においては、
盲目の詩人であったとも伝えられていますが、

それが事実であったとするならば、

盲目であるホメロスが紡ぎ出した
一つの文学の力によって

文字を持たない盲目的な時代であった
暗黒時代の終わりがもたらされたということになります。

無文字社会であった古代ギリシアの暗黒時代を生きた人々は、
ほぼすべての人が文盲であったわけですが、

ホメロスが語り出す新たな文学の力によって人々の目が開かれ、
古代ギリシアは、歴史上の盲目の状態から解放されたのであり、

つまり、

自分自身は盲目であるはずの
詩人ホメロスの言葉が放つ知の光によって、
新たなる文明と新たなる時代の目が開かれたということになるのです。

・・・

以上のように、

ホメロスが語り出した『イリアス』と『オデュッセイア』という
ヨーロッパ最古の叙事詩がギリシア文字によって書き記され、
古代ギリシア社会の内に定着することによって、

紀元前1200年から500年間にわたって続いた
古代ギリシアの暗黒時代はその終わりを告げることになります。

そして、

ホメロスの叙事詩が成立した
紀元前8世紀をもって

古代ギリシア・ローマと続くヨーロッパの古典時代
新たにその幕開けを迎えることとなるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:古代ギリシアの暗黒時代とは何か?②500年間にわたる歴史の断絶と思想と人材の喪失

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