『オデュッセイア』から『アエネイス』へ続くギリシアとローマの物語、古代ローマ建国史①

ローマの建国史は、通常、
ロムルスレムスという
双子の兄弟の伝説からはじまりますが、

その建国伝説のさらなる大本は、
トロイアの英雄であった
アエネアスの伝説にまでさかのぼることができます。

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ウェルギリウス『アエネイス』におけるローマ建国の歌

古代ローマ最大の詩人である
ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』は、
次のような語りではじまります。

私は歌う。
戦いと、そして、ひとりの英雄を。

神の定める宿命に従って、
かつてトロイアの岸辺を離れ逃れて、イタリアの、
ラウィニウムの海辺にたどり着いた英雄を。

彼こそは、大地に大海に、神々の力に操られ、
ことに冷酷なるユーノーの、忘れぬ怒りを身に受けて、
ありとあらゆる苦しみに、いたく苛まれし者。

あまたの戦いの苦難に耐えて後、
ついにローマの都を建設し、

故郷の祭祀をその地に移して後、
アルバの高貴な一族と、高くそびえる城壁の、
ローマの国が生まれいづ。

(ウェルギリウス『アエネイス』冒頭部)

ここで言う「ひとりの英雄」とは、すなわち、ローマ建国の大本となった
英雄アエネアス(ラテン語でAeneas、古代ギリシア語ではAineias(アイネイアス)またはAineas(アイネアス)とも呼ばれる)のことであり、

叙事詩の表題である『アエネイス』(Aeneis)という言葉自体が、
アエネアスの物語」という意味を表しています。

そして、

この叙事詩のなかに出てくるトロイアとは、
ギリシア軍との十年にわたる神話上の戦いである
トロイア戦争で有名な古代都市のことを指していて、
小アジア現在のトルコ北西部のエーゲ海沿岸に位置していました。

一方、ラウィニウムは、
イタリア中央西部のラティウム地方にあった
ローマのすぐ南隣に位置した港湾都市のことを指しています。

ちなみに、

ここで出てくる「冷酷なるユーノー」とは、

ローマ神話において、主神ユピテルの妻で、
結婚と出産を司り、女性の結婚生活を守護する
女神ユーノーJuno)のことであり、

いわゆる「6月の花嫁」(June bride (ジューン・ブライド))
という言葉の語源も彼女にあるのですが、

彼女は、その裏の顔として
嫉妬と復讐の女神という側面を持った女性でもあます。

ユーノーは、とある因縁から恨みを持ったトロイアに対して、
事あるごとに様々な攻撃や嫌がらせを加え、

国としての滅亡後も、
トロイアの英雄であったアエネアスに目をつけ、

突如暴風を吹かせて彼が率いる船隊の大半を沈没させたりと、
周りの部族をそそのかして彼と敵対させ
新たな戦争の火種をつくったりと、

トロイアの生き残りであるアエネアスに対して
執拗に冷酷な仕打ちを加えていくことになるのですが、

それが『アエネイス』の物語の展開における
一つのスパイスともなっています。

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ホメロスの『オデュッセイア』からウェルギリウスの『アエネイス』へ

ところで、

古代ギリシアの吟遊詩人ホメロスの作と言われる

ギリシア最古の長編叙事詩である『イリアス』と『オデュッセイア』も
トロイア戦争前後のギリシア世界を題材とした作品であり、

イリアス』(Ilias、英語ではIliad (イリアッド))では、
トロイア軍ギリシア軍の十年にわたる戦争のうちの最後の五十日間が、

オデュッセイア』(Odysseia、英語ではOdysseyオデッセイ)では、
トロイア勝利後にギリシアの英雄オデュッセウス故郷へ戻るまでの
十年に渡る漂流の物語が

それぞれ描かれています。

そして、

ホメロスの『オデュッセイア』においても触れられているように、
トロイア戦争の最後においてトロイアは、

トロイの木馬Trojan Horse、ギリシア軍が巨大な木馬を神への捧げ物として残して撤退したかのように見せかけて、トロイア軍にその木馬を戦利品として城内に引き入れさせ、勝利の酒宴を開き油断するトロイア兵たちの隙をついて、木馬の中に息をひそめて隠れていたギリシアの伏兵たちが内側から城門を開いて本隊を引き入れ、一気に夜襲を仕かけた計略)と呼ばれる

オデュッセウスの計略によって、
たった一夜にして陥落してしまいます。

ギリシア軍による奇襲攻撃の最中、
トロイアの王プリアモスも殺され、

トロイアは完全なる滅亡を迎えてしまうことになるのです。

そして、

以上のようなトロイアの突然の滅亡によって終わる
トロイア戦争の終結後、

ホメロスの『オデュッセイア』では、
戦争勝利後の帰途へとつく
ギリシアの英雄オデュッセウス
凱旋の旅が描かれているのに対して、

ウェルギリウスの『アエネイス』では、
ギリシア人の奸計にかかって祖国を滅ぼされ、
還るべき国を失った
トロイアの敗軍の将アエネアス

自分が新たに生きるべき新天地を求めて諸国をさまよう
苦難と放浪の旅が描かれています。

つまり、

ローマの詩人ウェルギリウスは、

ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』の物語を引き継いで、
さらに、その物語を先へとつなげていく形で、

自らの民族であり国家である
ローマの建国物語を歌い上げていったのであり、

しかも、それを、

勝者であるギリシア人の視点ではなく、
敗者であるトロイア人の視点から

新たに描き直すことによって、
新しい物語を創り上げていったのです。

・・・

そして、

ウェルギリウスの『アエネイス』における
ローマ建国の大本の物語では、

祖国トロイアの再興を誓って、ついに、
新天地イタリアの西海岸へとにたどり着いた
トロイアの英雄アエネアスは、

中部イタリア土着の民である
ラテン人と対峙することになります。

・・・
このシリーズの次回記事:
トロイアの英雄アエネアスとラテン人の王女ラヴィニアの婚姻、古代ローマ建国史②

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